俺って、何を勉強してきたんだっと頭を抱えて部屋の隅でのの字を書くほど落ち込ませる。
「ま、まあ、次があるよ。落ち込むなってルウ」
 ロリスがこのまま放っておけないと思ってくれたのか、俺に優しい言葉を投げかける。ロリスという名前からして美少女のようだが実際は男だ。これが、女の子からの励ましの言葉だったら心底嬉しいんだけどね。そういうことぐらいうまくいってほしいんだけれど、ここでもダメみたいだ。
「それに、お前美人さん顔だから怒るとすっごい迫力なんだわ……」
 俺のこの世界がおかしいと思う点その一。美的感覚がおかしい。
 どうもロリスに言わせると俺の容姿は男も女も魅力を感じるほど整った顔立ちをしていて、いわゆる「美形」「美人」と分類されてもおかしくはない、いや、むしろ分類しろ、という見本のような顔立ちらしい。
 俺は確かにダブルだから準日本人的な顔立ちをした人たちに比べたら顔がいい事ぐらい知っている。『外国人みたいで素敵〜』と女の子から言われたことは何度かある。というか、外国人みたいってまた微妙な表現だよな。日本以外の国に行ったら俺らは外国人だっつーの。一部の女の子に『最近人気が出てきたハリウッドの若手俳優に似てなくもないかも』、と言われたこともある。それって、似てないんじゃねぇの? と俺は心の中でツッコミいれるのを忘れはしなかった。表面的には、うろたえつつ『ありがとうよ』というのが精一杯の俺。
 そんな俺が、超絶美形なわけあるか〜〜〜〜〜っ
 しかし、こっちの世界に来てからというもの俺の顔を見るなり、ぽ〜っと遥か彼方の世界を見つめているような表情になって俺の質問にろくに答えてくれない男女多数発生。その原因が俺の顔にあるなんて知った日には喜んでいいのか絶望すればいいのか、分からなかった。
 それ以来、俺は顔の一部を隠すようにサングラスをかけていた。
 俺の顔は指定公害かって言うんだ!
「あんたもいい加減、男ならうじうじするのやめなさいよ! 儲かったんだからいいじゃない!!」
 俺のことをガラスをこすったときのようなキンキン声で叱り付けたのは、パーティを組んでいる仲間の魔法使い、アルシェーンだ。
「おまえなぁ、アレがどれだけ重要だったか知らないからそんなこというんだ」
「あーんな紙ッ切れ、どこが重要だって言うのよ」
 ああいえばこういう、口から先に生まれてきただろとツッコミたくなるような女だ。髪の毛を腰のあたりまで伸ばしていて、色は漆黒の闇の色。瞳はその情熱的な性格を表しているのか真紅の色をしている。俺から見ればちょっとつり目の美人、という顔立ちで今は、怒りのために頬を紅潮させていた。魔法使いマギエル、と名乗っているくせに使える魔法マギエフラーム魔法マギエだけ、というヘタレ魔法使いマギエルだがそんなことはどこかに吹き飛ばしたのかいつも自信に満ち溢れている。
「それは……」
 俺は口ごもった。アルシェーンには俺がこことは違う世界からきたことを言ってはいない。だって、仮に俺がこの世界の住人で、目の前にいる奴から「違う世界から来たんだ」とか告白されたら正気を疑うね。まず、俺ならこう言う。「夢の見すぎだ」
「ほーら、ごらん。重要だったらちゃんと説明したらいいでしょ」
 くっそぉ。このアマ……。今に見てろよ。
「アルシェーン……ルウもそこら辺にして置いてくださいませ。注目を浴びてますわ」

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