アルシェーンは腰に手を当てて仁王立ちして、半分高笑いしながら話しているものだから、注目度は極端にアップする。極めつけ、顔だけはいい。美女が酒場で高笑い。注目するなって方が無理だ。
「ユーリスだって、こんなやつ庇うことないのよ。剣さえ振り回していれば良いと思っている、愚かな剣士ヴァリオーなんだから」
 剣士ヴァリオーなんだから、剣を振り回さないでどうするっ?! と俺は思うのだが、俺は自分の剣術があまりうまくないことに自覚があるのでぐうの音も出ない。俺とアルシェーンの仲裁をしてくれたユーリスも思うところがあるらしく、困ったような表情で俺の顔を見た後はあ、とため息をついた。ユーリスはアルシェーンとは正反対のタイプで、物静かで物腰は上品。顔立ちは優しい面差しで一度だけ、教会で見たことあるマリア像のような柔和な笑顔を見せてくれる。髪の毛の色はプラチナブロンドで、瞳の色は晴れた空の色をしていた。まるで女神のようだといったら大げさかもしれないけれど、神様に仕える神官プリエスターだから浮世離れしているのかもしれない。
「とにかくですね。次はどこへ行きますか? 当分の間は食には困らないでしょうけど、ここでこうしていても仕方ありません」
「そうだな。ここらでひとつちゃんと人助けでもやってみる?」
「人助けぇ?」
 俺はロリスの提案に不審そうに聞き返した。このパーティーを組んでから今まで俺たちがやってきたのは、酒場や宿場でダンジョンやお宝の噂話を聞きだし、実際にそれを取りにいくといったトレジャーハンティングといわれることしかやっていない。ちゃんと宝があって儲けが出るというのはなかなか少ないけれど、やらないよりかはまし、という結果が最近出るようになってきた。
「……ここで、有力者にコネクションを築いておけばお宝の情報も、手に入りやすいと思うよ」
 乗った! と俺とアルシェーンが食らいつく。俺は有力者なら知る機会もあるかもしれない珍しい情報である『世界を渡る方法』が知りたかったし、アルシェーンは文字通り金銭儲けと受け取ったのだろう。
「最近、このポートフィリオでは誘拐事件が多発しているらしいんだ。犯人を捕まえたものに賞金一万ゴールド、有力情報を提供したものに三百ゴールド支払われるというお触書があるんだ」
「賞金提供者は誰?」
国王陛下ゼイネン・マイェステートの名前さ」
 ロリスがにやり、と笑った。こいつ、こういうところには抜け目がない。
国王陛下ゼイネン・マイェステート自らが下々の誘拐事件について調査せよっていう命令出すのか? この国は」
 信じらんねぇ、と俺が言うとロリスは肩をすくめる。
「今回が初めてだよ。どうやら誘拐されているのは下々のものだけじゃなくて、警備が厳重なはずの貴族の子息や令嬢なんかが含まれているようだからね」
 貧富の差を問わず誘拐か。なんだか嫌な予感がする。
 誘拐、というからにはその誘拐した人物に何か価値があるか、もしくは誘拐されたものの家に価値があるかのどちらかということが多い。天才科学者なんかは、誘拐して悪事に利用されそうだけれど攫われたのは、天才とは縁遠い一般人という話しだし、家に価値を見出しているのなら貴族の坊ちゃん一人ぐらい攫っておけば、遊んで生活できるだけのお金ぐらい身代金要求ができるだろう。

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