現在の地球だと、誘拐して身代金要求というのははっきりいって成功させる確率は低い。それだけ科学捜査が発達しているということだ。ドラマの見すぎでみんな、通話時間を短くすれば逆探知されないとでも思っているようだけど、そんなわけあるか。
 だけれど、ここは文明的には中世のヨーロッパという程度だ。身代金要求は楽勝に成功させれそうだ。それでも、俺は気になることがある。この世界の文明は中世のヨーロッパ程度のレベルといって間違いない。だが、それを上回る科学技術をたまにお目にかかることがある。空を飛ぶ飛行艇や、金属製のダンジョンがあることだ。それに、通信機器が発達していてかなり値は張るが、携帯電話のようなものだって存在している。ピアスとして売られているそれは、同じものを持っているもの同志の遠距離通話ができるようになっている。そのくせ、生活は中世レベル。アンバランスもいいところだ。ロリスにいわせたら、この世界にはかつて『楽園パラディエス』ともいうべき平和で豊かな国があったのだが、一夜にしてそれが滅んでしまったらしい。その上に今の国があるんだとか。いわゆる、こういう発達しすぎているものはロストテクノロジーのおかげらしい。だが、その技術を応用しようという考えにもまだたどり着けないほど、テクノロジーのレベルが低いようだ。
 魔法マギエが発達しているから、テクノロジーが発展しないんじゃないか、と俺なんかは思うけど。
「いろんな奴らが事件解決にあっちこっち行ってるみたいだけど、全然解決できてないみたいなんだ」
「なんで解決できないんだよ? 犯人の足取りぐらい、つかめるだろ? 仮にお貴族様を誘拐してるなら、家臣たちが黙っちゃいないはずだ」
「もちろん、黙っちゃいなかったんだけど……ある地点を境にぷっつりと足取りが途切れてしまうんだ」
 そりゃ、怪しい。あからさまにその付近に本拠地があります、と言ってるようなものだ。
魔法マギエで結界を張ってるんじゃないのかしら? だとしたら、魔法使いマギエル一人いれば、そんなの破壊できるわよ」
「誰一人破壊できてないから、未解決なんだよ」
 ロリスは楽しそうにニコニコと微笑を浮かべて俺たちを見つめている。なんか、こいつの手のひらでコロコロ転がされている気がしなくもないが、そんな不思議現象が起きてるなら仕掛けってのを見てやりたいじゃないか。
「決まりだね。行き先はメイヒュー王国の西の果て国境沿いだ」
「こっから、馬で三日の距離か」
 馬には乗れるようになったけど、長時間乗っているのは嫌なんだよな。尻が痛いから。大体、魔法マギエだってあるのにこの世界は交通手段がほとんど発展していない。馬か馬車か徒歩だ。おかしなテクノロジーが残っているのなら燃料で動く鉄の馬車ぐらいあってもいいだろうに。
「どうする? ルウは馬車で行く?」
 ロリスは俺を見ながら、楽しそうに微笑んでる。俺が移動のときに落馬したことをまだからかいの種にしているのだ。あれは時効だ、事故だと言っているのだがロリスは聞き入れてくれない。俺は乗馬なんてしなくても生活できるところに住んでいたんだ。なのにロリスときたら相当俺の慌てた様子がおかしかったようで、当分このネタでからかい続けるようだ。俺は新しい話題を提供しないように気を引き締めた

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