「さっさと飯食いに行こうぜ」
 トレジャーハンター様ディーブは空腹のようで、俺とアルシェーンの一瞬の攻防なんて気にも留めてない。
「野郎の裸なんて見ても面白くもねぇから、はやくシャツを着ろ」
 俺が扉の向こうにいるはずのアルシェーンに向かって、ハリウッド映画でよくやる『地獄へ落ちろ』という指のサインをしているとロリスが俺の着る予定のシャツを投げつけた。俺の頭に見事にそれは直撃して、顔の前面がシャツで遮断される。俺は視界をふさいでいるシャツをつまみ、袖を通した。皮冑を身につけ、枕許に立てかけておいた愛用の剣を腰のベルトに取り付ける。
 この世界に来て、護身用として覚えたのは剣術だ。ロリスはトレジャーハンターディーブの家柄で家族や親戚、一族の者たちが全員トレジャーハンターディーブというとんでもない家だ。そのおかげで、俺はお世話になっている間、ロリスの親戚たちに護身術を教えてもらえた。いろんな武器を使える中で選んだのはオーソドックスな剣だったのだけれど、あんまりしっくりこない。もうちょっと使いやすいと感じる武器をちゃんと選んでおいたほうがよかったんだろうか。いざ実践となるとどうも無駄に剣を振ってしまう。
 俺が扱いやすい細長いものといえば、中学のときから続けてきたバトミントンのラケットぐらいだ。ああいう握り方をする武器ってないのかな? 棍棒……はちょっと違うし。台所のフライパンとかしっくりきそうだ。でも、フライパンでモンスターを殴り倒すの? ね? それってやっぱり反則だよね。
 俺はすっかり伸びてしまった自分の髪を後ろでひとつに束ねながら部屋を出た。ここはニ階は宿屋、一階食堂になっている。俺たちは下の階へ降りて行くと、食欲を刺激するいい匂いがしてきた。もうすでに朝食を食べている客たちがいてそちらから漂ってくるようだ。看板娘であるリナが小さい体でくるくると元気に動きながらお店を切り盛りしている。
 俺たちは、かりかりのトーストと、トマトとじゃがいものスープとサラダを頼んだ。ここのトマトとじゃがいものスープは絶品だと思う。トマトの酸味が食欲のわかない朝でも食べれるのだ。
 リナが出来上がった料理を次々と俺たちのテーブルの上に乗せる。今日のサラダはジャガイモのサラダのようだ。ジャガイモだけではなくて、レタスザラートをお皿の上に敷き、その上にゆでたジャガイモカートフェルンきゅうりサラートクルゲが乗せられていた。飾りつけはチャイブだ。
 黒パンロゲンブロードはかりかりのトーストにされて籠のうえにいい匂いをさせて並んでいる。そのとなりにはバターとジャムの小瓶が置かれている。

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