典型的な朝食の出来上がりだ。俺は木製のスプーンでスープを掬い口へと運んだ。うまい。
「メイヒュー王国の西の国境までは馬で移動するとして……その後の目的の場所はどうなってるんだ?」
 俺の問いかけに、ロリスはかじっていたパンを皿に戻した。
「何もないらしい」
「は?」
「メイヒューの西の国境はロンデスガルドの森だ。森の真ン中あたりにぽっかりと木の生えていない円形の穴が開いているらしい」
「穴、だけ……か?」
「穴だけだ。だが、近づいても入れない」
「魔法で入れないようにバリアでも張ってるのかしら?」
「宮廷魔術師クラスの魔法使いマギエルが何人も挑戦したけど、その魔法マギエを解呪することはできなかったようだね」
「ちょ……そんなの、どうすんだよ?」
 俺たちは、冒険者としては初心者マークもいいところだ。そんな大事ムリに決まってる。
魔法マギエはダメかもしれないけれど、神聖魔法ヘイリングマギエならいけるかもしれないだろ?」
 ロリスは黙々と食事をしているユーリスに視線を向けた。そうだ、ユーリスは神聖魔法ヘイリングマギエが本当に使うことができる数少ない聖職者だ。
 神聖魔法ヘイリングマギエというのは本当に使うのが難しいらしく、どんなに修行を重ねても傷を癒す魔法マギエや、身体能力を引き上げる魔法マギエは使えないことが多い。事実、神様に仕える聖職者たちの大半は教えを伝える伝道師でしかないし、高位聖職者たちも伝道師から選出されるのがほとんどだ。そんなに珍しい神聖魔法ヘイリングマギエを使える聖職者をよく、いつ死ぬか分からない冒険者なんて稼業を教会が許したのかということが、俺には分からない。ユーリスに聞いてもはぐらかされるだけだった。ユーリスは教会からの嫉妬でそのような扱いを受けているのかもしれない。よくあることだ。
神聖魔法ヘイリングマギエを使えるもの自体少ないから、解除に挑戦させたはずはないということだな?」
「そういうことだ」
 俺の回答に満足そうにトレジャーハンター様は頷いた。なんだって、こいつはこんなに偉そうに見えてしまうのだろう。
 食事が終わったので、部屋に戻り出発の準備をした。二日分の宿代を払い、リナからお弁当を受け取る。特別に作ってもらっている弁当だが、これが結構おいしい。また、次にココに戻れたときには宿に泊まろうと心の中で誓って、今朝買ってきた馬に乗った。

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