「……神聖魔法ヘイリングマギエで作られた、侵入者を防ぐための結界のようです」
「解けそう?」
「簡単なものですから、すぐにでも……ただ、結界を壊すことによってどんな影響があるかはわかりません」
 結界、というからには何か悪いものを封じている可能性だってあるわけだ。帝国エンパイアの軍人がいたのも、もしかしたら悪いものが外に吹き出ていないか確認するためかもしれないのだし。
 ……いや、待てよ。最近この穴ができて、軍人の出入りが多くなったのも同時期となると、この穴を作って結界で封じたのも帝国エンパイア軍人である可能性もあるな。
「凶悪なもんスターがでてこられたら、たまらないしな。……それに、帝国エンパイア軍人が貴人の誘拐にかかわっていると知ったら普通の冒険者は手を引くだろうな」
 国同士の揉め事に、巻き込まれるのは嫌だ、と誰もが考えるだろう。場合によってはグラン帝国から犯罪者扱いされるかもしれないし。ロリスは言わなかったが、メイヒュー王国だって誘拐を容認しているかもしれない。表面上は、報奨金を出しているけれどね。
「この結界をといて、なんの影響もなかったとする。この穴にどうやって入るかも問題だな」
 ロリスは結界越しに、地面に大きく口を開けている空洞をみつめた。ロープをたらして降りて行く、なんてそんな生半可なことでは攻略できそうにない。
「いっそ、飛空挺で突っ込むのが楽だけど……」
「飛空挺は国家レベルの持ち物だから、そうすぐには手に入らないわ」
 ま、待ってくれ。そんな空飛ぶ乗り物俺はこの世界にきてから見たことないぞ。
「大国同士を結ぶ、高価な移動手段だからな。……でも、ほらひとり酔狂な奴がいるだろ」
 ロリスの言葉で、俺以外の二人は納得したらしく「ああ、あの人ですか」とか頷いている。俺が誰だか領らなくて戸惑っていると、例によってアルシェーンが高飛車に講義する。
「あんた、そんなことも知らないの〜?! 空の旅人スカイレンジャー『シェリダン』といったら冒険者の間では超がつく有名人よ。長い銀髪に、涼やかな顔立ち。とってもかっこいいってうわさなんだから。世界で数少ない個人所有の飛空挺の持ち主で、世界中を旅しているのよ」
 このミーハー魔法使いマギエルめ!
 アルシェーンは俺の素顔を見たことがない。俺の素顔を見たらこの態度、すこしは改めるのだろうか。
 しかし、国家レベルでしかもてない代物を、なんで個人所有できているんだろうか。シェリダンは貴族か?
「なんでもシェリダンは消失技術フォーロレネテクノロジーの復元に優れているんだ。シェリダンの所有している飛空挺はかつて楽園パラディエスがあったころ使われていたものらしいよ」

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