問題は、その超有名な飛空挺乗りをどうやって仲間に入れるかだ。大体、いまどこにいるんだよその有名人は。
「有名人だからこそ、居場所がすぐにわかる。飛空挺が着陸できる街なんて限られているからな。街に入っていたらすぐにわかる」
 自信満々に答えるロリスは、もしかしたらこうなることを予想して、シェリダンの居場所さえ押さえているのかもしれない。
「シェリダンがいるのは、メイヒューだ。王都にいる」
 やっぱり。しっかり聞き込みしてるんじゃないか。
「そこまで予想してるんだったら、前から教えてくれてもいいんじゃないの?」
 アルシェーンがあきれて言うと、ロリスはにやりと笑ってしれっと答えた。
「何事も目で見ないと信じないタイプなんでな」
 アルシェーンがほほを引きつらせて、なにか口から出てくる前にユーリスが間に入った。
「ここから、メイヒューまでは馬で一週間ほどの道のりでしょう。明日から向かいますか?」
 メイヒュー王国は砂漠に囲まれている。今から王都に向けて出発するとなると砂漠のど真ん中で一夜を過ごすことになるんだそうだ。それは、いやだ。
「じゃ、そういうことで戻る……」
 俺はそのまま来た道を戻ろうと、振り返ったとき怪しげな気配を感じて周辺に視線を走らせた。わずかだけれど、獲物を狙う獣の潜めた息遣いを耳で感じ取った。
「ロリス……」
 俺は、長剣の柄に右手を添えてロリスを横目で見た。ロリスも感づいたのか、姿勢を低くしていつでも短剣が出せる体制になっている。
「今まで気がつかなかった」
 こういうのもなんだが、ロリスの相手の気配を感じ取る能力はかなりいいほうだと思う。新米冒険者がなに言ってるんだって思うかもしれないが、ロリスの気配を感じ取る能力が高いおかげで危険を回避しまくってるから今まで生きてこれたんだ。
「アルシェーン、下がれ。ユーリス、援護頼む」
 いよいよ近づいてきた気配に、俺は長剣を抜いて構えた。下草のかさり、と踏みつけられる音がはっきりと聞こえてくる。がさり、とひときわ大きく草のなる音と同時に、影の形をした風が俺に襲い掛かってきた。
 剣を構えて影を受け止めて、その正体を目に映した。真っ黒な毛並みに敵意しか浮かべていない飢えた輝ける眸。なんでも噛み砕きそうな牙。俺が受け止めたのは、この牙だ。ひげが生えていることだけがこいつがねこ科の生き物だと知らせてくれる。
 俺の知識を総動員すれば、こいつはトラ。真っ黒な毛並みを持つトラだ。だけど、全長は俺よりでかい。もう、絶対、人を食うって思うね。
「こんな凶暴なのいるはずないんだけど」
 ロリスが得意の短剣で、背後からトラを切りつけた。
「大体、トラは森の中に住めないだろっ」
「ルウ、よけなさい!」

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