俺の突込みを、アルシェーンの言葉がかき消した。アルシェーンの大きな声のあとに、フラムが燃え上がる音がすぐに聞こえた。
 また、操れない魔法マギエをつかったんだな。
 炎が帯状になって、俺のほうへと飛んできた。フラムに罷れる寸前、トラの口から長剣をひっこぬいて、俺はしゃがんだ。うめき声とともに、肉のこげるいやな匂いが上からただよってくる。トラの顔面にフラムがあたったのだ。
 痛みにのたうつトラの背後に、短剣をつきたててロリスはトラを絶命させた。
 苦悶の表情を浮かべて、地面に倒れ伏すトラを見下ろしながら、アルシェーンは高飛車に言い放った。
「ルウ、この皮、剥ぎなさいよ」
「はぁ?」
「黒虎の皮は高級品よ。さ、剥ぎ取りなさい」
 お前、本当に金持ちのお嬢さんか? 金にやけにがめついんだけれど……。
「自分で剥げよ」
 俺だって、動物の皮を剥ぐなんていうスプラッタなことはしたくない。
「私は帝国貴族アッパーテンの令嬢よ。皮剥ぎなんていう、卑しい仕事はできないわ」
 皮剥ぎが、卑しい仕事?
 きょとんとしている俺に、ユーリスが遠慮がちに口を開いた。
「アルシェーンの出身国であるグラン帝国エンパイアは身分階級ですべてがきまります。皮を剥ぐという職業は誰もやりたがらないため、最下層以下のモノがやることになっています」
 いま、ユーリスの発音がおかしくなかったか? 者……ではなくモノ、と言っていた。
 しかも、最下層以下ってどういうことだ。
「私の国には、人ではないモノがたくさんいるから、そのモノたちが皮剥ぎを行うのよ。この中で力があって、一番身分が低いのはルウでしょう。だから、やりなさいと命じたのよ」
 ちょっと、なんかおかしくないか?
 俺がロリスに視線をむけると、彼はしゃがんだまま黒虎を検分している。
「これは、皮を剥いでも売れないからやめたほうがいい」
 ロリスは触るのもいやだ、といわんばかりに黒虎の首についている金色の首輪をさした。金色のチェーンで作られていて、小さな四角い飾りがひとつだけついていた。
「ここについてるのは、グラン帝国エンパイアの紋章だ。これって、魔法研究所のマークだよね?」
 金色の飾りには、鷲をあしらったグラン帝国エンパイアの紋章と、手と古代文字をあしらってあるマークが刻印されていた。
「魔法研究所から逃げ出した献体でしょうか?」
「さあな……研究所出身となると、買い手は無いからね……引き上げよう」
 ロリスがさっさと元きた道を歩き始めたので、俺はあわててついていった。聞きたいことが山ほどある。
「おい……さっきの」

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