「黒虎のこと?」
「違う……それも気になるけど、グラン帝国エンパイアのことだよ。アルシェーンのあの反応は普通なのか?」
 俺は声を落としてロリスに聞いた。俺のいた世界ではありえない言い方に、俺は戸惑っている。
帝国貴族アッパーテンだからな。普通だ」
 ロリスも声を潜めて答える。短い答えが、俺の心につきささる。
「最下層以下のものって……」
帝国貴族アッパーテンから言わせれば、人間以外のモノが存在するのだそうだ。妖精というらしい。その実態は、俺たちから見れば人間だ」
 人間が、人として扱われてない?
「どうしてそんな国があるんだ! ……俺のいた世界は……俺のいた国はそれは差別だと禁止されて……」
「グラン帝国エンパイアでは常識だ。人は生まれた身分で一生が決まる。覆すことはできない。アルシェーンはまだいいほうだ。妖精が見えないとは言わないから」
「他の国はなんで黙ってるんだよ。おかしいと思うだろ?!」
 国際社会では通じないとか何とか、よく新聞に出てるじゃないか。
「思ったとしても、何も言わない。グラン帝国エンパイアは強い。それに……妖精たちもこれが当たり前だと思っている」
「……詳しいな」
「俺も何度も、帝国エンパイアに行って居心地の悪い思いをしているからな」
「ロリスは帝国人じゃないから、身分は関係ないだろ?」
「あの国は、他の国の人は異端であり自分たちより身分が低く、野蛮だと思っている」
 俺は、後ろを歩くアルシェーンをちらりとみた。ユーリスと楽しそうに話をしている。
「アルシェーンはそうは見えないが」
 高飛車だが、俺はともかくとして、少なくとも彼女にとって外国人であるユーリスに対しては
 友情を育んでいるように見える。
「だから、彼女は異端なんだ」
 そうだ、アルシェーンは故郷を追い出されたのだ。
「閉鎖的な国家であるグラン帝国エンパイアで、彼女は帝国貴族アッパーテンになりきれなかった。身分制度は身に染まってしまったけれど、友情の育み方は染まらなかった。魔法マギエも、フラムしか操れない……帝国貴族アッパーテンである限り、魔法マギエが不得意というのは、致命的だからね」
『だから、彼女は異端なんだ』というロリスの言葉が脳裏に響く。いつも、高飛車で口を開けば憎たらしい言葉しか言わないアルシェーンだが、どっかで苦しんできたのかもしれない。
 ……だからといって、さっきの身分制度うんぬん発言は許されない言い方だと思う。


 その根性、叩きなおしてやろうか?

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