「とある依頼を受けた。それを実行するにはあんたの飛空挺の腕が必要なんだ」
「私を雇うほど金が有るとは思えないな」
 俺たちをぐるっと目だけで見渡してシェリダンは言った。
「依頼の報酬の五分の二をシェリダンに渡すというのではどうだ?」
「依頼の内容を先に言え」
 ロリスが掻い抓んで、誘拐事件の話をした。変な実験動物が出てきたことは、巧みに伏せられていて、森の奥のダンジョンへの入り口に飛空挺が必要であることを説明した。
「ふん……あの国王に借りを作れるのか……いいだろう」
 喜ぶ俺たちに、シェリダンが条件を突きつける。
「ただし、君たちの力量が知りたい。簡単な仕事を依頼するのでそれがクリアしたら協力しよう」
 無条件にってわけにはいかないだろうね。俺たち、初心者冒険者だし。
「俺の友人からの依頼なのだが、貴重な生き物の卵がある部族にさらわれてしまってね。その卵を取り返してほしいんだ」
「貴重な生き物って……?」
「砂漠魚」
 ロリスたちが、それは大変だ、とかなんとか言っている。そんなに絶滅しそうなのか? ユネスコに登録できるほど?
「ある部族って?」
「バージ族」
 トカゲ野郎かっ、とロリスが呟く。この世界には、人間と共存している二足歩行した生物がたくさんいて、バージ族もそのひとつだ。俺からすらば、ヤモリとかイモリとかが服をきて二足歩行して人語を話しているように見える。
 バージ族は原始的な生き方をずっと守り続けているようで、いまだに狩猟民族なのだそうだ。砂漠の岩山で生活をしていて、砂漠に住む生き物たちを食料としている。
 彼らと、メイヒュー王国では契約が結ばれていて、貴重な砂漠魚だけは狩猟の対象にしないと決まったらしいのだがあんまり守られていないのだそうだ。それだけ砂漠での生活が厳しいのだろうが、卵までとられてしまったのであれば、砂漠魚が絶滅しかねないということで見て見ぬふりで見逃してきた研究者たちが取り締まることにした、ということのようだ。
「バージ族は好戦的で、人間を見下しているから注意するように。卵は無傷で持って帰ってこいよ。全部で三つだ」
 たとえ危険だとしても引き受けるしかないのだ。


 俺たちが考えた作戦は、バージ族の住処を探して忍び込み、卵だけをいただいて帰るという至極平和的なものだ。気がつかれなければ。気がついたら、どうなることか……。バージ族は好戦的で、人間を捉えて食うらしい。
 うーん。広場でキャンプファイヤーをやりながら棒にくくりつけられた人間の周囲をバージ族が踊っている姿が浮かぶんだけど。
 バージ族の住処は砂漠。しかも定住じゃないからどこに住んでいるのか判らない。とはいえ、結構大きな集落らしいので、情報を集めれば現在の位置ぐらいは特定できそうだ。
 そんなわけで、バージ族の情報収集のためにバザールへ来ているのだが、オレンジを露天販売している爺さんに俺は捕まった。
 ものすごい話好きの爺さんで、俺がまとめてオレンジを買ったらぺらぺらと機嫌よく話しかけてきた。なんだか元は冒険者で、世界を又に駆けた超有名冒険者だったらしい。
 ……この干からびた、コンブみたいな爺さんが? ありえねぇ。
 だけど、俺はここの世界の知識が足りないのでなんでも知りえることは知っておきたい。話している内容が全部ホラじゃないことを俺は祈った。
「お前さん、バージ族には会ったか?」
 タイムリーだっじいさん!
「会ってないな。じいさんは、バージ族と戦ったのか?」
「当たり前じゃ。昔は、今ほどバージ族は温和しくなくてのぅ。人間の集落を襲っては、女子供をつかまえて、食料にしとったんじゃよ。たびたび、わしらも仲間を集めて狩りに行ったもんじゃ」

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