バージ族の聖地は砂漠のど真ん中にあり、苛酷な環境化にある。俺たちは十分に装備を整えて向かったはずなのだがはやくもつらくなって来た。
 行けども行けども砂だらけというのは心理的な圧迫感がある。三百六十度、上下に分けるのは空と砂だけ。最初こそまぶしい朝日と、鮮やかな夕日に感動したけれどそれが三日も続けば飽きてきた。
 昼間の熱い時間に軽く昼寝をし、朝早くと暗く涼しくなってから行軍するようにした。それでもかなり体力は奪われていく。テレビで頭から布をすっぽりかぶっている人たちを見て、暑くないのかなと思いもしたが、逆にかぶらないと太陽の熱で焼け死にそうだ。布をかぶっただけでこんなに涼しく感じるとは思わなかった。
 メイヒューから、五日ぐらい砂漠を歩いたところに聖地はあるという。砂漠にどんと大きい石がたくさん並べられているのだそうだ。メイヒューにある砂漠は完全な、すな砂漠ではなく荒涼とした大地と、すな砂漠が混じっている。聖地はおそらく荒涼とした大地にあるのだろうと、俺たちは予想をしていた。
 四日目のはじめに、すな砂漠を抜けて大きな岩山が連なる乾いた大地へと抜けた。大地にはひびが入り、背の低い草がまばらに生えている。これが風化したらすな砂漠へと変貌するのだろう。
「バージ族は何をあがめているんだ?」
「サラマンダーだ」
 俺の問いかけに、苦もなくロリスが答えた。
 サラマンダーって、火トカゲか?!
 口から、火を吹いたりするのかっ?!
「口から火を吹くのはドラゴンだろ。サラマンダーは、そいつ自体が炎で包まれてるトカゲだ」
「それは……つまり」
 俺とロリスは何気なく、後ろを歩くアルシェーンへ視線を向けた。
「そういうこと」
 俺の言いたいことがロリスに伝わったのか、何も言わずにロリスは頷いた。
 火の魔法しか使えないアルシェーンの魔法はまったく効き目がないってことだ。
「今回倒すのは、サラマンダーではないし……ただ、サラマンダーの加護とかなんとかで、バージ族は炎には強い」
 それは、アルシェーンの魔法が通じないってことか……。
 バージ族と戦うなんてことがないようにしたいものだ。


 夜も更けて、交代で火の番をして睡眠をとっていると、まだ、見張り交代ではないのにユーリスが起きだしてきた。
「まだ交代じゃないよ」
 俺は、薪をくべながら起き上がったユーリスに答えた。
「寝れないんです」
 仕方がないな、と俺はため息をついた。ごつごつしている岩肌の上に寝ているので、いくらなんでも寝心地は悪い。ユーリスは教会にいたそうだから、こういうところで寝るのはあまりないのだろう。俺だってないけれど、生来のがさつさがこんな時に役にたった。どんなところでも寝れる。
「ルウ、話し相手になってもらえませんか?」
 いつもより、声のトーンを落としてユーリスが言った。俺は構わないと頷いてユーリスの言葉を待った。
「ルウはなぜ、冒険者になろうと決めたのですか?」
「知りたいことがあったからな」
「それが、この間のクエストにかかわる事ですか?」
 俺は一度、目の前で『世界を渡る方法』について書かれた羊皮紙を手にしておきながら、読む前に勝手に燃え上がり灰になったことがある。ロリスは他人に読まれないような魔法がかけられていたのだろうと言っていたが、俺はその情報がのどから手が出るほどほしかった。
 俺の世界に帰るには、それぐらいしか思いつかないからだ。
「ルウは、普段あまり執着しないのに、そのことにはだいぶ拘っていましたから……ルウはこの世界が嫌なのですか?」
「嫌なわけじゃない」

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