そんな悠長なことが頭によぎっていたのがいけないのか、掴みかかろうとしてきたバージ族に頭をむんずと手で捕まえられた。
 ものすごい握力でなにかしようとしているのを、俺がもがき振りほどく瞬間に、かけていたサングラスが音を立てて地面に落下した。
 俺が顔を上げると、バージ族達はそのままの姿勢で時間が止まったかのように動かない。ざわつきが急に静かになったのを不審に思ったのか、アルシェーンが俺に振り返り、目を見開いて頬に赤みが差したかと思うと、うっとりするような視線で俺をみつめて立ち止まった。
 人間ならまだわかるけど、バージ族にも俺の顔って有効なのかよ!
 俺が一歩足を踏み出すと、バージ族達は手にしていた武器を放り出し俺から十分な距離をとると一斉に地面にひれ伏した。
 なんだかよくわからないけれど、これは好機だ!
「ユーリス! 俺のほうを見ないでアルシェーンをつれて走れっ。いくぞ、ロリス」
 ロリスは俺の顔に免疫ができているので、まったく動じていない。卵を抱えなおしてロリスは走り出した。俺も続けて走り出すと、きゅいきゅいいいながら、砂漠魚の子供が空を泳ぎながらついてきた。
 これって……俺が親だと思ってるのかな?
 孵化するときに一番近くにいた俺を親だと刷り込まれてしまったのは事故だ。どうも、保護生物らしいので、今後どうするかはシェリダンに相談したほうがいいかもしれない。
 俺達は、地面にひれ伏すバージ族たちの合間を縫って、見事聖地より帰還した。


 本当に、俺ってなんなんだろう……。

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