「海外旅行をするだけで重罪か?」
「皇帝の許可がなければ、死罪のようですよ」
 そんなの俺の常識からは考えられないな。さしあたり、江戸時代の脱藩と同じようなものなのだろうか。海外旅行なんて元いた世界ではしたことないが、俺だったらそんな窮屈な生活は耐えられないかもしれない。旅行ぐらいで、重罪だなんて俺は、ごめんだ。
「ルウは、ロリスの一族なんですね」
 ユーリスがアルシェーンの視界を両手でさえぎって、正気に戻そうとしている。ちなみに俺は、街に入るなりすぐにサングラスをかけている。
 俺が、ユーリスの問いに黙ってうなずくと、そうはみえませんね、とユーリスが微笑んだ。まあ、確かにどうみたって、俺の雰囲気じゃ盗賊にはみえないだろう。
「故郷が無くなってから、あいつの家族に拾われたからな」
「そうでしたか、ご苦労されていらっしゃるんですね」
 ユーリスは、ブツブツと呪文を唱えると両手から淡い光が漏れ出る。すぐにその光は収まって、アルシェーンの両目から手を離した。
「もう大丈夫ですよ」
 ユーリスがいうやいなや、アルシェーンははっとした表情で俺を見て、穴が開きそうなほど俺を睨み付けた後、つんと顔ごとそっぽむいた。
 俺が何かアルシェーンに言い返してやろうと思っていたら、シェリダンがため息をついて立ち上がった。
「……ついて来い、その件の本当の雇い主に会わせてやる」

 連れて行かれたのは、メイヒュー城だった。こういうときには、門番とかが出入りのチェックをするものだと思うけれど、ノーチェックだ。シェリダンが軽く挨拶しただけで、門番達は気軽に通してくれる。すれ違う場内で働く人々もシェリダンに挨拶したり、挨拶し返したりと仲がよさそうだ。
 ここまでノーチェックとなると、メイヒュー城にいる偉い誰かからの信頼が厚いとしか思えない。
 彼の仕事は空賊。だけれど、為政者側に気に入られる仕事……保護動物の保護の手伝いをしているからこそ、悠々と飛空挺なんてものを個人所有にしていられるのだろう。
 シェリダンときたら、なんのお構いもなしにどんどん城の中を歩いていく。やがて、王族とかかわりのありそうな、豪華な扉がたくさん並んでいるエリアまでやってきた。

 あ……ちょっと嫌な予感がよぎった。

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