湯殿から出ると、用意されている服に着替える。ミシェーラさんから手渡された服は、飾りのたくさんついた服だ。長めのワンピースには、小さな葉の薄い模様が入っているし、その上から着るマントだか、ストールには小さな花柄だった。そう、よく王族の人が身につけている高そうで着飾っている服だ。だって、スカートのすそに小さなダイヤモンドがいくつも刺繍してあるんだよ。こんな服はじめてきた。
 足だってマニキュアを塗られて、最高級の皮で作った編み上げサンダルを履いた。足首には金の細いアンクレットをつけているし、首元には同じく金の細いネックレス。手には右手の人差し指と小指に指輪をはめられた。
「こちらの小指にはめた指輪は、王族の直系のものしかつけることが許されていない紋章入りのものです。はずすことはありませんように」
 ミシェーラさんは、私のつけた指輪を見ながら説明をする。右手の小指につけられている指輪にはライオンかなんかの動物が吠え掛かろうとしている横向きの姿が彫られている。材質は金だろう。ライオンの瞳には小さなルビーが埋め込まれている。
「……これ、ピジョン・ブラッド……?」
 私はその埋め込まれているルビーの色の赤さに蒼白になった。これ、高すぎる代物だ。
「よくお分かりになられましたね。最高級のピジョン・ブラッドが埋め込まれています。とても値段はつけられないぐらい価値のある指輪であることを覚えて置いてくださいませね」
 私はあまりのことにかくかくと、何回も首を振って頷きながらもうひとつ、左手の人差し指にはめている指輪の事を聞いた。
「それは、あなたの名前入りの指輪です。ゆくゆくは結婚相手にその指輪をプレゼントするのがならわしです」
 け……結婚相手。そんな、まだ相手も決めてないのに。
 指輪だけくれるだなんて
「詳しくは、ライア様に聞いてください。彼が王家の習慣など全部教えてくれるはずですから」

 私の部屋だ、ということで案内されたのは私の家の二倍もの広さのある部屋だった。高そうな調度品で飾られ、窓も広く大きく取られている。天蓋つきのベッドはまるで、御伽噺のお姫様の部屋のようだった。入り口で、ぽーっとほうけた顔でたっている私に、ライアが早く入るように言った。
「ここは、あなたの自由にしていい部屋です。隣の部屋にミシェーラか同じく護衛のミズライルが控えていますので何かあれば、彼らにもうしつけください。それと……さしあたって、殿下には一週間後に控えたお披露目パーティーまでに王族としての礼儀と立ち振る舞いを覚えてもらう必要があるようですね」
「お披露目パーティー?」
「正式に内親王としての地位を授かる儀式です。有力な貴族や豪商を招いてあなたの存在のアピールをする必要がありますから」
「辞退するって言うわけには……」
「いきません」
 ひぇぇっ。そんな堅苦しいパーティーに出たことなんてないから、いやなのに。礼儀って言ったって、一週間やそこらでどうにかなるものなの?
「明日の朝から、きっちりと私が面倒見ますので。まずは歩き方からですね」
 まさか、歩き方から直されるとは思ってなかった。私って、そんなにまずい歩き方してるのかな?
 そう、そんなことよりも気になることがある。だって、私って本当に内親王なの?
「ここまできて、アレだけど……私って本当に、王家の血を継いでいるの?」
 ライアは急に優しい目つきになって、私に諭すように言葉をつむぐ。
「私が聞いているのは、殿下がお生まれになってすぐ、臣下で忠実なる騎士だったボリジ殿に養女として殿下をお預けになったということでございます。ちょうど、宮廷内がごたごたしておりましたので、お命をお守りするために致し方なかったことだと伺っています。成人になったらお迎えに上がるお約束でしたが……どうしもお呼びしないとならない事情ができましたので」
「では……私は……」
 本当に、現国王が父親で、王妃が母親なのか?!
 私は遠目でしかその二人の姿を見たことがないというのに。
「父君は、現在の国王陛下ですが、母君は亡くなられたウィシュトア領主の息女、ルミーネ様でございます」
「陛下の側室の?」
 ライアは私の言葉に頷いた。

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