予言の子

 親子の対面は、王の私室で行われるそうだ。私は身支度を整えて迎えに来たライアとミシェーラを連れ立って王の私室へと向かった。
 なんて、あいさつしたらいいのかな。
 ただいま? いや、なんか違うな。ここははじめて来るし、大体王妃様とは血がつながってないんだし、帰ってきてもあまり喜ばれてないだろう。
 はじめまして? 無難かな。いくら親子とはいえ初対面だもんね。私は遠くから見たことあるけど、王宮内にずっといる王様と王妃様なら私なんて路傍の石もいいところだ。
 王の私室、というわりには簡素な扉だ。後で分かったことなんだけれどことさら豪華にしておくと賊が侵入したときにすぐにそれと知れてしまうから、簡素なつくりにしてあるんだそうだ。
 ライアが扉を開けて私は中に入った。
 明り取りが十分にされた大きな部屋で、部屋の真ん中辺りにあるソファに二人は腰掛けていた。私は二人の前まで歩み寄り、つい、習慣で膝をつく。
「お初にお目にかかります。ルシーダ・ボリジでございます」
「面を上げよ」
 下腹部に響くような低い声が頭上から降り注いだ。王者の威厳たっぷりの私の父親だ。言われるままに膝をついたまま顔を上げる。
「よく、戻った。そなたとは生まれてすぐ離れてしまったゆえ、苦労もかけたと思う。これからはベツヘルム王家に恥じぬよう勉学に励むがよい」
 私は頷いて頭をたれた。親子とはいえさすがに感動の再会とはいかないものだ。私も別に心が打ち震えたりもしない。
「お前には、弟がいる。すでに知っているとは思うが王太子サーデラインだ。王太子を守り立て、王家と国家の繁栄の支えとなれ」
「御意」
「では、もう用はない」
 あれ? 終わり。
 王妃様なんて、私に眼もくれないし話しかけもしないんだけど。
「もうすぐ、嵐が来る」

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