身分とかでがちがちに固められて、いいたいこともいえないよりか気さくに何でも言い合える仲のほうが嬉しい。もし、身分がつりあっていないと対等に会話ができないのであれば私は世界中の誰とも対等な会話ができない。父や母は敬う存在だし、弟とはいえサーデラインは王太子に擁立されているから、私よりも地位が高いのは明白だ。
「さて、もう一度やりますか」
「パルサティラ、という人は探さなくていいの?」
「神出鬼没ですからね……。魔術師たちの塔に行ってみますか?」
「魔術師たちの塔?」
「東の塔のことを俗称でそう呼んでいるんです。宮廷魔術師のラカシス閣下の執務室や魔術師団の詰め所がありますから」
「ラカシス閣下って、ラカシス・プチグレンのこと?」
「そうですよ。さすがに有名人ですね」
「有名?? 私、ラカシスの娘と友達なの」
「ああ、殿下は錬金術師であらせられたのですものね。……ところで、殿下もしかして、ベツヘルムの歴史に弱いですか?」
 うっ
 痛いところを遠慮なくついてくるな。
「苦手だよ」
 自分でも弱弱しく、庇護欲が沸いてきそうな声が出せたと思う。
「ライア閣下に頼んでおきますね。さすがに、ラカシス閣下のことが分からないのはちょっとまずいですから」
「そんなに偉い人なの……?」
「二十三年前にベツヘルム王国が滅亡しかけた戦いがあることを知りませんか? 邪悪なる魔術師が世界を滅ぼさんと禁断の魔術に手を書けたことが原因なんですが」
 私は首を振った。
 生まれるちょっと前の出来事というのは、歴史の授業でもあまり取り扱わないことのほうが多いから、よく分からない。
「そのときに先陣を切り、魔術師の送る軍隊と戦い常勝し、帰還不可能といわれた魔術師の迷宮に挑み無事に帰ってきた数少ない生還者の一人です。この国、いや大陸広しといえどもラカシス閣下にかなう魔術を持っている人はほとんどいないといっていいでしょうね」
 知らなかった。
 学校で習ったのは……魔術師が反乱を起こして国王陛下が軍を率いてそれを討伐した、ってことぐらい。帰還不可能の魔術師の迷宮だなんて聞いたことがない。
 ぽかん、としている私の表情に気がついたのだろう、ミシェーラは苦笑した。
「きっと国家機密になってるんでしょうね。ただ、ここでは当たり前のように話題に出ますから知っておかないと損をしますよ」
「わかった。ライアに歴史の授業も特訓として入れてもらわなきゃ」
 その意気です。とミシェーラが励ましてくれる。
 私、ちゃんと内親王らしくできるかな?
 できなくても、もう帰る場所なんてないんだけれど。

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