ちょうど時間になったので、私は窯から焼いたケーキを取り出す。さすがに焼きたてケーキを不安定な魔法で運ぶわけには行かなかったので、両手にミトンをつけて鉄板をつかんで引っ張り出した。黄金色に焼けたケーキは本当においしそうだ。
 丸型を鉄板から取り上げて、布巾を敷いた台の上に三十センチの高さから落とす。こうするとショックでスポンジが縮まないのだ。そして型からはずして網の上に載せてスポンジを冷ます。もう一個焼こうと思って作っておいた卵液をまた型に入れて窯に入れる。
 焼きあがったスポンジに、本当はジャムを塗ってクリーム・シャンティイをデコレーションするとおいしいのは分かってはいるんだけれど。
 クリーム・シャンティイを搾り出すのって、私苦手なんだよね。綺麗にデコレーションしているケーキを高級なお店で見たことあるけれど、アレは私にはできない。あれこそ魔法で奇跡よ。
「じゃ、お茶の準備をしましょうか。本当ならこういうのはミシェーラがやるんですけどね。今日だけは特別です」
「別の任務中です。ミシェーラがいないときには双子の弟のミズライルが護衛に当たりますが、今回は私が傍におりますので、ミズライルが護衛につくのはごく僅かです」
「ミシェーラの双子の弟?」
 ライアがにっこり笑って頷いた。
 うわー。双子だなんて、どんな人なんだろ。やっぱり顔はそっくりなのかな。ミシェーラと双子って言うのだからきっとものすっごくかっこいい人なんだろうな。ま、目の前にいるライアには誰にもかなわないと思うけど。
 私は、焼いている間に調理器具を片付け始めた。やっぱり借りて作ったからには、最初のときのように綺麗なキッチンにして返したい。この焼きあがったケーキはひとつはここを貸してくれた料理長さんへのプレゼントだ。ライアが直接渡しておいてくれるらしい。
 十分たって、綺麗に焼きあがったケーキをやっぱり三十センチの高さから落として、しぼむのを防ぐ。プロの料理人に焼きっぱなしのスポンジケーキをあげるのもちょっと気が引けるけど、なにをやっていたのかわかっていたほうが、借りられたほうとしても安心だと思うんだよね。私はライアが用意したワゴンに自分たちで食べる分のケーキを乗せて、料理長さんへ上げる分をライアに手渡した。
「部屋に戻る途中に、料理人たちの詰め所がありますからそちらへ寄ってから戻りましょうか」
 最初、ティーセットとケーキののったワゴンを私が押していこうとしたのだけれど、ライアが血相を変えて、殿下にそんなことはさせられません! と阻止してきたので、私が料理長さんに上げるケーキを手に持って、ライアがワゴンを押している。
 白い上品なワゴンを押す超絶美形は絵になるんだけれど、こんな美形さんにワゴンなんか押させちゃっていいのかな。
 ファンから抗議されないかしら……。
「ご・き・げ・ん・よ・う」

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