意地悪な彼

 料理長さんにケーキを渡したら、ものすごく感動されてしまった。しかも、こっちがびっくりするぐらい恐縮していた。やっぱり、内親王という肩書きは相当強力なもののようだ。きっとこの六貴族の人たちが異常なんだわ。私を普通の女の子として扱うから。
 でも、私としては普通に扱ってくれる彼らの存在がありがたい。
 私は神様じゃなくて、単なる人間の女の子なんだって思い出させてくれるから。
 私の部屋に戻って、それぞれソファに腰掛ける。私の隣には、セイ、向かいにはライアとパルサティラが座っている。私がケーキを切り分けてそれぞれに手渡す。口々においしい、といってくれる。中でも甘いものが好きなパルサティラはすっごく幸せそうに笑って言ってくれる。
「ルシーダ殿下はサーデライン殿下には会った?」
「いえ、弟にはまだ……」
 ふーん、とパルサティラがフォークを加えたまま頷く。
 なんだろう、弟まで変わってるのか。十分この二人の貴族だって変人といってもおかしくない。
「たぶん、気が合うと思うよ。彼、変わってるから」
 パルサティラはにっこり笑っていう。悪気はないんだろうけれど、弟も変人かと思うと先が思いやられる。ここにまともな人はいないのか。
「殿下は自分の歓迎パーティーのパートナーは決めた?」
 パートナー?
 正式に内親王としての立場を国内外に知らしめるパーティーがあるのは知っているけれど、そのときにパートナーが必要だなんて聞いてない。
 ちらっとライアをみると、清ました顔で紅茶なんか飲んでる。
「まだ、決めていません……パートナーが必要なんですか?」
「未婚の女性はね、男性のパートナーがいないと『男漁りに来ています』って意味に取られちゃうから気をつけたほうがいいよ」
 き、聞いてない……!!
「ライア、私は誰といったほうがいいのですか?」
「私でいいじゃないですか」
「え? それでいいの?」
 なんかもっと重要な意味が含まれてそうなんだけれど。でも、ライアは文官の中で優秀な人しか切れないオフホワイトのマントを着ている身分だし、教育係だし私のヘマをフォローしてくれそうだ。
「ライアにするの? だったら僕にしなって。ちゃんとエスコートしてあげるから」
 セイが私のほうにちょっと顔を近づけて言った。
「えーっずるーいっ。僕もどうせだたらルシーダ殿下とパートナーがいいなぁ」
 そんな、パルサティラまで。どういうこと?
「内親王殿下のパートナーになる、ということはそれだけ寵愛されているということになりますからね。他家への牽制にもなりますし、自分にも箔がつきますから」
 種明かし、とばかりにライアが政治的な見方を教えてくれる。
 そうか、だから私はかつてないほどモテモテなのね。
「わかった。アルニカ、一緒にパーティ行きましょう」
 私の宣言に、名指しされたセイも、ライアも目を点にして私を見つめた。
「そういうことだったら、さっそくダンスの練習しよう? ほら、ほら、あと四日なんだから」
 いち早く正気に戻ったのはセイだった。私の手をとって部屋から連れ出す。私って、護衛がいないと宮廷内を歩き回ってはいけないだけど、どうしよう。
「お供します」
 私の部屋から出ると、出口で待ち構えていたミシェーラそっくりの人が私たちの後からついてきた。ミシェーラの双子の弟、ミズライルだろう。ミシェーラに雰囲気がちょっと似ていて、想像した以上にカッコイイ。なんだか顔を見ていると自然にほほが赤くなりそう。
「クラヴィ室で練習しようか。あそこなら、何もないし」
 セイに言われるまま、最初にセイと出会ったクラヴィだけが置いてある部屋に向かう。
「殿下は、ダンスの経験は?」
「皆無です」
「そっか、じゃあ、立ち位置からかな」
 クラヴィだけの部屋で、二人で向かい合う。私とセイの身長差はちょうどいいみたいで、彼の方に手を置くときもあんまりつらくない。これで背の高いライアとかを指名していたら、私の手がつりそうだ。
「スローテンポの曲のときは、こうして向かい合って踊るのが一般的なんだ」

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