セイは音楽の才野がある、というのは本当みたいでカウントをとりながら、私にステップを教えてくれる。しかも、口で時折メロディまで奏でたりして。甘い声がメロディを奏でると、ぞくぞくするような色っぽい歌声になるなんて、知らなかった。セイに支えられた腰が熱い。ものすごく中性的で淡白に見えるのに、それでも時折、男らしさを感じる。
「ただ、お祝い事だからね、こうして楽しい曲で踊ることが多いかも」
 私を支えていた手を離して、二人で並んで手をつなぐ。つないだ手を中心に大きく円を書きながらぐるぐると回る。
「これで、ワンフレーズ終わったら前に並んでいる人と位置を交代するの。そうしてパートナーを変えて、またワンフレーズで戻る」
 こっちのほうが、簡単でいいかも。
 ステップは踏めるようになったけれど、やっぱり足を踏んでしまわないか気になるし、神経研ぎ澄まして踊ることになるけれど、これだったら気兼ねしないですむ。
「ありがとう、アラニカ。ちゃんと踊れそう」
「……気になってたんだけど」
 セイは私と向かい合って首をかしげながら私に問う。
「他のみんなは名前で呼ぶけど、なんで僕だけ名字なの?」
 それは……
 理由を言っても、笑わないかな?
 私が言いにくそうに視線をそらしたら、セイがからかうような口調で言葉を続ける。
「気になっちゃうな。ルシーダ殿下」
 声に力でもあるのか、よりいっそう甘い声音で私に問いかける。ううっ……頬が熱くなってきた。絶対、私、いま顔が真っ赤だ。
「あのね……笑わない?」
「うーん? 場合によっては、笑うよ」
「言わないっ」
 そんな正直に答えるやつにいえるかっ
「うそ嘘。ね、言って?」
「アラニカはね、私の好きな花だから。だから、名前で呼ぶよりも……」
 一瞬、セイは目を大きく見開いてうっすらと頬を赤くした。
 うわ、珍しい。
 それとも、アラニカってなんかものすっごく恥ずかしい花言葉だったりするのかな。
『究極の愛』とか、ほら、思いっきり勘違いしそうな。
「君は、さしずめシンビジュームだね」
 シンビジュームって花言葉なんだろう。アラニカでさえ花言葉分からないのに。
 きょとん、としている私にセイはくすくす笑うと、耳元で囁いた。
「誰かに意味を聞いたらダメだよ。ちゃんと辞書を使って調べてね」
 私は耳元のくすぐったさにこらえ切れなくて、両手で両耳を押さえながらニ、三歩後戻りした。こいつ、この笑顔の時絶対何か企んでいるときなんだ!
 おとなしそうな顔をして、ちょっと意地悪なんだ!
 顔に感情がはっきり表れる私をからかって、楽しんでるんだ。
「あ……あはっは……じゃ、私はこれで……」
「四日後、覚悟して待っててね」
 なにを?!
 何を覚悟すればいいの!!
 教えて、誰かっっ

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