「そんな面白いことあきらめるわけないでしょ」
それに、とセイは声を落として私につぶやく。
「君は魅力的だと思うよ。うん……周りにはいないタイプだね」
そうでしょうとも。だって私庶民出身だもの。
入場の合図がなり、陛下を先頭にして会場内に並んで入っていく。先に会場に入っている人々はみな、部屋の真ん中から両サイドに別れて起立のまま頭を下げていた。
私は、セイに右手を軽く握られ一番最後に会場内に入った。部屋に入ったとたん、わずかにざわめきが聞こえる。私がいることに驚いているのか、セイがエスコートしていることに驚いているのか私には分からない。私は、サーデラインの隣に並んで正面を見た。百人前後だろうか着飾った人々が頭を上げて直立不動の姿勢をしている。
「本日、わが娘、ルシーダ・スター・ベツヘルムが帰還した」
下腹部に響く重低音で陛下が私を紹介する。
私のフルネームは「ルシーダ・スター・ベツヘルム」に変わるわけね。
「今宵は、その祝いである。存分に楽しむように」
国王陛下がゴブレットを掲げると、同じように参列者たちもコブレットを掲げる。
パーティーの始まりだった。
私が驚いたのは、セイの人気ぶりだ。私の横にいるにはいるけど、後から後から年頃のお嬢さんたちがセイに恥ずかしそうに挨拶に来る。ついでに横にいる私を睨んで牽制している。私って王族のはずなんだけれど、あんまり敬われてないみたいだ。
しかも、セイは女の子に囲まれるのが嫌ではないらしく人畜無害そうな微笑を浮かべて女の子たちの話を聞いていた。どうやら、彼女たちは親に付き添われてきたようでここで将来のパートナーを捕まえに来たようだ。
ご苦労なことで。
ほかの人と話すにしても、パルサティラも、ライアも、ナトゥラムも私の知らない誰かと楽しそうに談笑している。仕方なく、私はセイの近くで壁の花になっていた。こうして人を観察しているのも悪いもんじゃない。
「初めて御意を得ます、ルシーダ内親王殿下」
いつの間にか私の前に二十代後半ぐらいの背の高い男が立っている。私と視線が会うと優雅に一礼して名前を名乗る。
「私は、シーヴィア・コルツフットと申します。大陸行路の東の要『シュテンツア城』守備隊長をしております」
シーヴィアは端正な顔立ちをしている。絶世の美形だ、と思ったライアに比べたらぜんぜん地味な顔立ちだけれど、女の子たちからは人気がありそうな容貌だ。茶色い髪に小麦色に焼けた肌も魅力的だ。武人、というと無骨で無粋なイメージがあるけれど、この人はどこか優雅だ。無骨だと威圧されている感じがするのだけれど、そういう圧迫感もない。
「本日はご帰還おめでとうございます」
シーヴィアがにっこり微笑むのを見て、私は心臓の鼓動が大きくなったのを感じた。自然と顔が赤くなる。たかが笑顔を見ただけで顔が赤くなってるのを知られるのは恥ずかしくて、右手で右頬を押さえる。手で触った顔が熱い。
「ありがとう、シーヴィア」
私はようやくこれだけ搾り出した。
初めてだ、帰ってきたのを祝われたのは。
シーヴィアはもう一度お辞儀をして、人ごみの中にまぎれていった。その均整の取れた体つきと、武人らしい、質素だけれど仕立てのいい服を着ている後姿に目を奪われる。
かっこいい。