ナトゥラムは全然、シーヴィアの表情に気がついてないみたいだ。
文句のひとつでもナトゥラムに言ってやろうとしたところ、しれっとした表情でナトゥラムは私の言葉をさえぎった。
「ところで、クラヴィを弾いていたのはセイだって気がついていたか?」
「えっそうなの……?」
「知らないで、ナトゥラムと踊ってたなんていい気なもんだね」
私の背後から、突然セイの声がした。なんだか、ぞっとするような冷気を含んだ声だ。
私はびくびくしながら振り返った。セイが満面の笑顔を浮かべて私を見ている。だけど、口元はいつもの笑顔と同じようにきれいな半月を描いているが目は笑っていない。目の奥に冷えた光がある。
な、何故か怒ってるよ。セイは……。
「クラヴィ演奏素敵だったよ」
語尾にハートマークがついているのか、って思うほどとっておきの声を出してセイに話しかけたのに、なんか相変わらず目が笑ってない。
「素敵だったらちゃんと聞いててくれないと。ね?」
語尾の、「ね?」に、やけに力が入ってるんだけれど。私が助けを求めるようにシーヴィアとナトゥラムに視線を向けると、シーヴィアはどこかあさっての方向を向いているし、ナトゥラムはにやにやと意味ありげな笑みを浮かべている。
あれ……?
そういえば、さっき、ナトゥラムがダンスに誘ったときに生演奏の楽団のほうをみていた。私の身長だとクラヴィの演奏者は見えないけれど、ナトゥラムの身長だったら十分演奏者が誰かみれたはずだ。
もしかして、ナトゥラムはセイがこういう反応をするのを知っていて……!!
「ナトゥラム……」
「そろそろ部屋に戻るか?」
「え? は?」
ナトゥラムは私が睨んでいるのに、全然気にした風もなく私の手をとると強く自分のほうへと引いた。ナトゥラムに引っ張られて、縺れるようにして歩き出した私はセイの方へと振り返った。
怖い……。
だって、笑ってるのに。微笑んでいるはずなのに。
なんで私は責められているような気がするんだろう。