ネリーは私とナトゥラムのやり取りをみてくすくすと笑っている。よかった。ネリーずっと青白い表情をしていたから、ようやく笑ってくれた。
「私、王都警備隊のイスファーンとユリアという人から頼まれたんです。彼らに聞けばわかるかもしれません。……あ、でも私から言ったということがばれたら、彼らの立場が悪くなったりしませんか?」
「そこは、俺が何とかしておこう。ただ……」
ナトゥラムは言葉を切って考え込む。なにか気になることでもあるのだろうか。
「なんでもない、気にするな」
私が不思議そうにみているのが分かったのか、ナトゥラムはわずかに微笑んでそういった。
「そろそろ、帰ります」
「誰かに送らせよう」
「いえ、大丈夫ですから」
ネリーはナトゥラムの提案をやんわり拒否して優雅に一礼すると部屋から出て行った。
「私も部屋に戻るわ」
「少し待て、聞きたいことがある」
「なによ」
「あの娘、どこの娘だ?」
「プチグレン家の次女だけど」
「ああ、あのドロップアウトした娘か」
ナトゥラムの言い方があまりに含みのある言い方だったのが私の癇に障る。
「なによ、その言い方。家業を継がないからってそんないい方しなくてもいいでしょ」
「他に言いようがないだろ? 事実、彼女はプチグレンの家からでて、貴族の娘らしい生活はしていないようだし、魔術の力は皆無なんだろう。ドロップアウトした娘以外のなにものでもないじゃないか」
「そんなに魔術がつかえないのが、おかしいことなの? 親ができれば子もできるのが当たり前だとでも思ってるの!?」
「少しは落ち着けって。俺は別に娼婦として生活しているのが悪いとは言ってないだろう」
「ネリーは娼婦じゃないわよ!! 錬金術師よ。バカっ」
「俺様にバカとはいい度胸だな。発言は考えてからしろ」
「……ネリーの手伝いはしないって言うの?」
「とにかく、落ち着けって」
ナトゥラムが私を落ち着いてソファに座らせようと私の肩に手を伸ばした。私は、その手を叩き落としてナトゥラムに向かって叫んだ。
「この人でなし!!」
私がナトゥラムを頼ろうだなんて思ったのが間違いだった!
私は捨て台詞を吐くと共にナトゥラムの部屋から走って飛び出した。私の背後にナトゥラムの呼びかける声がかかったけれど、立ち止まらずにそのまま回廊をかけていった。
私は追いかけてくる足音も聞こえなかったので、そのまま回廊から中庭に降りた。中庭は石畳の道が舗装され、四阿がひとつ建てられている。四阿の周りとそこへ続く石畳の道の両脇には青々した緑と草花が植えられ、道に沿って緩やかに流れる小川が作られていた。砂漠にある国の最高に贅沢な庭だ。
私は冷たい月明かりに照らし出された中庭の石畳の道を歩いた。四阿への道の途中、立ち止まって空を見上げた。欠けることのない月が私を靜かに見下ろしている。
「あれ? ……ルシーダ殿下」
突然、かけられた呼び声に私は振り返って人影を見上げた。