意外な素顔

 私に声をかけてきたのは、今日はパーティ会場でみかけたなかったパルサティラだった。
「パルサティラこそ、どうしたの? 今日はパーティにいなかったわ」
 そういう、派手なことが好きそうなのに今日は姿を広間では見かけなかった。かわいい、という表現がぴったりの容貌だが整っているのでとても目立つはずなのに彼はいなかった。
「パル」
「は?」
「パルって呼んで? 親しい友人はみんなそう、呼ぶから」
「うん……パルはなんでいなかったの?」
 パルとは目線が同じだからだろうか、どこか親近感を覚える。
「今日は警護当番だったの。僕のいる魔術師第一師団と王都警備隊の人たち。……正確にはくじ引きで決めたんだけど」
「お城の警護ってそんないい加減でいいの?」
「当番とか決めてグループわけすると、派閥ができていたりスパイがいた場合困るでしょ。だから、くじ引き。使ってる籤だって魔法で書き替えができないようになっている特殊な紙を使ってるんだよ」
 宮廷錬金術師製、とパルはぽつりと付け加えた。
 パルと話していると独特のペースに飲み込まれゆっくりと話をしてしまう。
「どうしたの?」
 パルは私のことをまじまじと見つめながら問いかけてきた。満月に照らし出されて、パルのほかの人より若干大きな瞳が銀色に光っているように見えた。何もかも見透かしているかのような色だ。
「パルはさ、友達から助けを求められたらどうする?」
「自分でできる範囲のことは助けるよ」
「自分の命が危険にさらされても?」
「……ルシーダ殿下、何をしようとしてるの?」
 パルの大きな瞳が油断なく光る。
「仮定の話よ」
 あぶない、なんて勘が鋭いんだ。
「僕に嘘はつけないよ。殿下。殿下は、友人から助けを求められて、それに応じた。でも、助けるには命を懸けるほど危ないことだ。……違う?」
 私の瞳を下から覗き込むように、上目気味で聞いてくるパルは犯罪級に可愛い。私は顔を真っ赤にしながら、思わず頷いた。
 だめだ、この人にはうそをつけない。
「僕が手伝おうか?」
「え?」
「だから、僕が手伝ってあげるよ」
「……いいの?」
 私の説明を聞いてないのに、いいのかな。
 もちろん、内容を知ってしまったらパルが断れないようにしてしまうけれど、こんなにあっさり危ない橋を渡らせていいのだろうか。
「ちょうど今、忙しい仕事もないし。僕だったら君のこと守ってあげられるよ」
 屈託のない笑顔を見せてくれたパルは、まるで太陽のようだった。
「ありがとう、パル」
 私もパルの笑顔につられて微笑んだ。
 長話になるので、パルと私は中庭へと降りてくる入り口の階段に座った。この庭には四阿があるのだが今は防犯のため鍵がかけられている。二人並んで石造りの階段に腰掛けるとパルは魔法のアイテムを懐から取り出した。四角錐の形をした空色に透き通った石を取り出すと、私とパルの間にそれを置いた。パルが軽く右手をかざすと何もなかった空中から魔法の杖が姿を現した。白金色に輝くその杖は、材質がなんだか分からないが細かい飾り文字がたくさん彫られていて、杖の頭の部分には青空を閉じ込めたかのような美しい色をした球体が台座の上に置かれていた。よく見ると、その球体の内部にはたくさんの白い文字が浮かんでいるが何が書かれてるのか分からない。
 魔術の分からない私には、すごそうな杖、ということしかわからなかった。
 パルは現れた魔法の杖を手に取り、軽く四角錐の先端のとがった部分をたたいた。ぴん、と空気が張り詰める感触を皮膚で感じた。誰かに盗み聞きされないように、私たちの周りにだけ結界を張ったようだ。
「で、何があったの?」
「最近、王都で麻薬の被害が増大しているようなの。それも組織的に麻薬を密輸しているらしくて。……その組織の中に貴族や……王族がいるのではないか、と」
「それって、誰がそこまで調べ上げたの?」
「王都警備隊のイスファーンとユリアという人たちらしいの。私の友達がその二人から調査を手伝うように頼まれたらしくて」
「イスファーン……ユリアだね。その友達の名前は教えてくれる?」
「ネリー・プチグレン」
「!! ……ラカシスさんのお嬢さんだね」
 私は黙って頷いた。

next