「武官といっても、剣だけできれば良いというものではありません。将軍になるのであれば一軍を指揮できる技量が必要ですし、軍師となれば戦略、戦術など武術だけではどうにもならないこともあります。また、殿下はいずれ戦に赴かれる身。武官であったほうがなにかと有利でございますよ」
「サーデライン様は武官? それとも、文官?」
「サーデライン殿下は文官でございます。とはいえ、剣の腕もなかなかと評判ですよ」
「わかった。武官を目指すわ。そうすればサーデライン樣を助けることができるのでしょう?」
 というような、やり取りがあって私は足りない知識を補っているのだ。
 それにしても、決闘禁止令なんてものがあったなんて、知らなかった。
「裁判で解決すればいいのですが……裁判に持ち込まない方々もいらっしゃいますので、そういった場合、最悪両家おとりつぶし、というのが慣例です」
「裁判に持ち込まないってどういうこと?」
「犯罪であれば裁くことはできますが……人間ですからね、伝統的にあの家、あの一族とは仇敵だ、と教えられ育ってきたかたがた同士の争いは、裁判に持ち込んでも収まらないんですよ。もちろん、裁判なんてやらずにこっそりお互い牽制しあってることが多いです。そのこっそり牽制、がおおっぴらになったら両家おとりつぶしなんです」
「こっそり牽制って何をやっているの?」
「昇進に差をつけるだとか、パーティーに呼ばない、年賀の挨拶はしない、……例を挙げたらきりがありません」
 なんだそれは、子供のケンカか。
「当事者からみれば真剣そのものなんですよ。前王陛下の御世では、何件かおとりつぶしになっています」
「それって、たとえば六貴族のような王国建国に功績があった人たちでも?」
「適用されるのが建前ですが……さすがに六貴族ともなれば腹黒くていらっしゃいますから、世渡りは完璧です」
 現家長の人たちはどうだか知らないが、少なくとも六貴族の跡継ぎと目されている人たちはなんだか仲が良いように見える。年齢が近いからだろうか。
「……もう、こんな時間ですね。殿下、午後からはミズライルが剣の指導に当たります」
「はい。また、厨房側の庭にいればいいのですね」
「さようでございます。それでは殿下、失礼いたします」
 ライアは私の指導以外にも仕事があるようで、午前中はライアと勉強。午後はミズライルやミシェーラから剣の指導、という毎日を送っている。武官としての試験が受けられるぐらいまで政治も剣術も学ぶ必要があった。
 昼食を食べ終わって、私は厨房へと赴いた。剣術指導の休憩中にいつも食べるおやつのリクエストをしにいくためだ。なんども厨房へ足を運んでいるおかげで、私と料理人の人たちとは顔見知りになっていた。

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