世の中というのはどういうわけか都合よくできているのか、それとも都合がいいと考えられるほど、ありきたりだったのかその日のうちにアクションがあった。
 取引現場を押さえたわけではない。ただ、王都警備隊が調べた結果をナトゥラムが知らせに来てくれたのだ。
「あのアコライトはきわめて純度が高いのだが、若干混じり物があってな。それがディシア、レリシア、という花らしい。……なにか心当たりはないか?」
 礼によって偉そうに、私の部屋のソファに尊大に座りながらナトゥラムは言った。こいつが王都警備隊を掌握しているものだから当然のような顔つきをして私の手伝いをしているというのが気に食わない。だけれど、優秀なのは確かだし。乙女心は複雑だ。
「それは、この国だったらどこにでも生えている乾燥に強い草だわ」
「そんなことは分かっている。ありきたりなことは言わなくていい」
 ム、ムカツク〜〜〜〜〜〜っ
「一緒に生成しちゃったって事は、ここまでアコナイトを運んでこれた距離にある場所にアコナイトの原料となる花の一大群生地があるってことでしょ?」
 パルが小首をかしげながらナトゥラムに聞いた。黙ってナトゥラムは頷く。
「精々二日か三日……そうじゃないとアコナイトの原料は花だから枯れちゃうね」
「ナトゥラム、アコナイトの中毒者の出身地を調べることはできない?」
「最近の患者のものは調べたが、どれもばらばらだ。王都で中毒になったのだから、地方出身者が大勢いてもおかしくはない」
「……おてあげぇ。だってニ、三日だとしても早がけでニ三日だったら結構範囲が広いもの」
 大陸行路の要所といわれている、ベツヘルム王国だ。道の整備は近隣諸国のどこよりも優れている。
「アコナイトは一種類の花からの生成ではないし、でもその花々は育てるのには苦労しないから」
 だけど……そう、確かアコナイトにするにはいくつかのハーブを組み合わせて作るんだっけ。育てやすい花だけれど、その花の分布は錬金術協会が押さえていたはず。じゃないと簡単に麻薬を作れてしまうから。
「アコナイトの原料となる花々と、ディシア、レリシアの花々の分布図を調べれべれば特定できるかもしれないわ」
 すぐにナトゥラムが部下に命じて花の分布図を調べさせた。
「フォスフォリカってどういう人?」
 ネリーにちょっかいを出していた人だ。貴族の坊ちゃんだってのは分かるけれど、「クスリ」とかなんとかいって、悪ぶりたいだけの世間知らずなのかもしれないし。
「フォスフォリカ・カルニカ。カルニカ家の長男だよ」
 パルが答えてくれたものの、カルニカ家って何だ?
「バカ。まだ六貴族全部覚えてないのか。大概の馬鹿だな。カルニカ家は六貴族の一人で、現当主であるカルニカ卿は中書令だ。覚えておけバカ」
「あんたっていっつもいっつも、口開くたびに馬鹿バカばかって馬鹿にして〜〜〜っ」
「バカに馬鹿と言って何が悪いばか」
「きーーーーっム……ムカツク〜〜〜〜っ」

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