「パル、匂いを嗅いではダメよ。これは、魔力封じの薬」
「そんなことより、自分の心配をしたらどうだい? お嬢ちゃん」
 いつの間にか、私の背後に一人の男が立っていた。私はびっくりして、とっさに振り返ろうとするが自分の足よりも太い腕によってはかいじめにされる。
 うそ、なんでいつのまにミズライルとパルの包囲網を突破してきたの
「さ、お前ら武器を降ろしな。こいつの腕をへし折ってやってもいいんだぜ」
 耳障りな野太い声が私の体に響く。ミズライルもパルもぎりぎりと、私を取り押さえている男を睨んでいたが、諦めたようにミズライルは剣を、パルは魔法の杖を地面に投げ捨てた。
「彼女を放せ」
「そうはいくか、大事な金づるだ」
「へぇ、売り飛ばす気なんだ?」
 絶体絶命だというのに、パルはのんきそうに会話をしている。と思ったら、なんか目が笑ってないようにみえる。
「僕をあまり怒らせないほうがいいと思うよ」
 なんだろう、パルからどす黒いオーラのようなものが漂っている。威圧感もいつも以上にあるし。
「舐めたこといってんじゃねぇ」
 男達が数に油断したのか、はたまた武器がないのを笠に着たのか遠慮なく殴りかかる。パルの方へこぶしが振り下ろされる前に、パルの瞳から白い閃光が放たれ正面から殴ってきた男に直射した。男は、悲鳴を上げながら後ろへと下がる。
「さあ、次は誰がやられたい?」
 パルは割りと背が低めなので、取り囲んでいる男達を若干見上げるような体制なのだが、どういうわけだろう、今はパルが男たちを見下ろしているかのような存在感だ。パルの瞳はいまや怪しく輝き、残忍な微笑すら浮かべている。
 ブ……ブラックパル……。
 私は勝手に命名した。おかしい、明白におかしいって。パルってこんなにブラックな性格の持ち主だったんだ!
「遠慮することはないよ。どっちみち、君達は全員消し炭にするつもりなんだから」
 け、消し炭……!!
 ま、まずいよそれはっ
 私は押さえつけられているのにもかかわらず、襲ってきた男たちに同情した。パルってば容赦ない。
「お、おぼえてやがれ〜」
 男達は、個性のない捨て台詞を吐いて一目散に逃げ出していった。もちろん、私は路地にたたきつけられるように解放された。地面にたたきつけられる前にミズライルが私のことを支えてくれた。
「ありがとう、ミズライル」
「いえ、お怪我はございませんか」
「うん、大丈夫」
 私はミズライルに手を引かれて、立ち上がった。パルが心配そうにこちらを見ていた。
「私は平気だよ、パル」
「そっか、よかった」
 パルはいつものような太陽な笑顔を見せた。さっきのどす黒い雰囲気は一瞬にして消え去ってしまったようだ。
「ね、さっきのって魔法?」
「そうだよ」
「でも、魔法って長い呪文と動作が必要でしょ? それと、魔力を増幅する杖と」
「基本はそうだよ。でも、慣れてくれば動作も呪文も要らないで自分の意思だけで魔法の発動ができるんだ。それが僕の場合は光系の魔法には特に有効なんだよ〜」
 だから、何の予備動作も無しでいきなり目から光魔法が飛び出たのか。でも、何で目からなの? あれって、わざと? それともパルの趣味?
 ……なんか、聞けない。
「ありがとう、二人とも」
 私は二人にお礼を言っていないのを思い出した。

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