今日は、散々な目にあったので早めに城へ戻った。戻るときには前よりも厳重なチェックがあったけれど、私の正体はわからないようだ。
 だが、そう浮かれていたのも自分の部屋に戻るまでだった。パルと一緒に今日あったことについて話そうとしていたところ、私の部屋に般若のような顔をしたライアが仁王立ちして待ち構えていた。
 ウソ……。もしかしてもう、私たちが起こした騒ぎについて知れ渡ってるとか? そんなバカな。
 超絶美形であるライアが顔の筋肉を酷使して般若顔で怒っているのは、怖すぎる。ブラックパルの次ぐらいに怖い。
「ルシーダ殿下」
「は、はいっ」
 なんか私、今、声が裏返った。
「今までどこにいらしてたんですかっ」
「えっと……その」
「あ、僕用事を思い出したから、今日は帰るよ」
 私の後ろをついて歩いていたパルは今までに見たことないぐらいの速さで回れ右をすると、部屋から出て行こうとした。瞬間、私の部屋の入り口の扉から轟音と共に煙が吹き出る。
「……どちらへ行かれる気ですか? パルサティラ卿」
 コントロールが悪い、といっていた魔法をライアは使って、扉付近で炎系の魔法を爆発させたのだ。
 目がマジです。
「あは……あははっ。僕もやっぱり、ちょっと殿下と一緒にいようかな」
 パルは目の前で爆発したことに恐れをなしたのか、ライアの本気を感じ取ったのか不自然な微笑を浮かべて、私の背後に隠れた。
 ちょっと隠れないでよっ
「さて、本日どこへ行かれてました? ルシーダ殿下」
「えっと……パルと」
「パルサティラ卿と……どこへ?」
「パルの」
「部屋へは行かれてないでしょう。パルサティラ卿の侍女のものからそう伺ってます」
 口の軽いやつめ、とパルがこっそり私の耳元でつぶやく。
「パルと一緒に……」
「一緒に?!」
 う……。絶対ライアは私の行き先を知ってるんだ。今にもとって食われそうな威圧感で、ライアは私を見下ろしている。ダメだ、もう正直に言うしかない。
「外へ……」
「ルシーダ殿下!! いいですか。あなたは王位継承権が低いからといって、現国王陛下の第一子でございます。外にはよからぬやからが下り、あなた様の望むと望まないとに限らず、大変なめにあう事だってございます。政治的な利用価値というのも高いことをお忘れなく!! ましてや、殿下は儚い容姿のお方。そういうご婦人を好みだというひともいるのです!! 奴隷商人に売り飛ばされでもしたらどうなさるおつもりだったんですか!!」
 一息にライアはここまで言うと、ぜいぜいと肩で息をした。まだまだ、怒りは収まらないみたいだ。これから第二楽章なのか、それとも今のは単なる序章なのか。
「それに、殿下はまだここに来てまがないのです。まだまだやることはおありでしょう。本日のお勉強はどうなされたのですかっ本日は、私、ライアがベツヘルム王国についての歴史を教える日だったはず。時刻になっても殿下は部屋におらず、どれだけ心配したか。城中探しましたよ! いいですか、あなたにはたくさんの方からの期待がかかっているのです。確かに生まれてまもなく王族としての生活から離れ、心無いものたちから「卑しき身分」といわれていますが、そんなことはありません。あなたに期待を寄せ、よき王国の礎になってくれればと願うもの達がいるのです。それをあなたは否定なさるおつもりですか。ちゃんと、勉強にはでられてください」
 やっぱ、序章だったんだ。

next