エルフ王

「あの状況ってネリーは誘拐されたってことでいいの?」
 私とパルは向かい合うようにソファに座ってさっきの出来事を話し合っている。
「まず間違いないよ。ミズライル、君はあの男たちの太刀筋や姿に見覚えはないかな?」
「そうですね……。あまりこれといった特徴のある太刀筋ではありませんでしたし、……ただ、全員が赤い色のベルトをしているのが気になりました」
「僕もそれには気がついたよ〜。あれは、仲間だという証拠かな? ざっと部屋を見た感じ、ネリーちゃん本人に用があったようだし……。うん、ちょっとナトゥラム呼んだほうがいいかな。あと、セイも……。サーデライン殿下は会ってくれるかな……?」
 パルは大きな瞳をくりッと回して、考えをまとめると近くにいた侍女にナトゥラムとセイを呼びに行かせ、サーデライン殿下に謁見の時間がほしいことを伝言してもらう。
「家族の人に教えなくてもいいの?」
「ラカシス樣は、領地帰りをされているんだよね〜。プチグレン一族ってあとは、マーキュラス閣下と、ルティスの二人が王宮づとめだっけ?」
「ネリーから聞いているのは、母と叔父と兄が王宮に勤めているらしいということぐらいなの。ネリーは家族の事を聞かれるのを嫌がっていたので、私もあまり……あ、そうだ。ネリーは数少ないエルフの契約者なの。エルフはパートナーを決めたらその人を自分の半身のように扱うと聞いているから、連絡出来れば……」
「へぇ、彼女も契約者なんだね〜」
「も……? パルも契約者なの?」
「うん。僕は『暁の森』のエルフの娘と契約してるんだよ〜」
「ネリーも、『暁の森』のエルフだっていってた」
「名前は、わかる?」
「ゼラ……かな。人間の年齢だと十歳ぐらいに見える男の子」
 パルはその名前を聞いて、大きい目をさらに大きくして驚いていた。そんなに驚くようなことなのかな?
「僕はちょっと暁の森に行ってくるよ〜」
「え?! だって、もうすぐナトゥラムが来ちゃうよ」
 できれば、奴と話すときには誰かがいてほしい。
「こんな重要なことを手紙では話せないし〜。ゼラ殿には直接会わないと非礼に当たるんだ。ごめんね」
 あれ……? ゼラ……殿?
 敬称をつけるほど偉い人なの?
 ネリーはすっごく普通に、弟みたいに接していたんだけれど。
「ナトゥラムには、殿下が体験したことをそのまま話しておけばわかるよ〜。セイにも同じ事を話してあげてね?」
「でも、パルが呼び出したんでしょ?」
「え〜。何言ってんの? 殿下の名前に決まってるでしょ」
 パルの太陽のような綺羅綺羅光る笑顔で、爽やかに切り返されて私は絶句した。
 そ……そんなアホな。

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