「『すっごく重要な用件でお話があります。至急来て下さい』ってハートマークつけて伝言しておいたから、よろしくね〜」
 よろしくされたくない!!
 なんで、ハートマークつけてるのっ
「ちょ、ちょっと、パル〜〜〜?!」
 パルは魔法の杖を取り出すと軽く振って光の輪を作り出すとその輪をくぐるようにして消えていった。
 魔法で逃げられたっ。
 私が歯噛みしていると、扉がノックされ侍女がナトゥラムとセイが到着したことを知らせてくれた。
 こうなったら、ヤケだ。
「お通しして」
 私は盛大にため息をつきながらそれに答えた。紅茶の追加もついでに頼む。
「緊急の用事とはなんだ。つまらぬ用事なら、覚悟しとけよ」
 部屋に入ってくるなり、ナトゥラムが仏頂面で挨拶もなしに言ってくる。あ、彼の場合はこれが私への挨拶か。
「ごきげんよう、ルシーダ殿下。僕を頼ってくれるなんて嬉しいな」
 セイは、優雅に一礼して私の手をとり跪拝する。ナトゥラムとセイを足して二で割ったような常識人はいないものなのか。
「ああ、とにかくソファに座って」
 私はこれまでの経緯を掻い抓んで話した。
「ふむ……。こちらでも今日の報告でカルニカ地方から王都までの道のりは分かっているんだ。途中で専用の厩舎を設け馬で最短で運んでいる。表向きはカルニカ名産の小麦の輸送だ」
「実態は、麻薬の運びをやっているというわけなんだ」
 セイの言葉にナトゥラムが頷く。
「関所は小麦を見せて通過している。カルニカ家の家紋入りの通行手形だ。信頼性は非常に高いからあまり荷の確かめもしないだろう」
「それと、ネリーとどういう関係があるの?」
「落ち着けバカ。俺が脈略のない話をするとでも思うか? 現場を確かめないと分からないが、十中八九、麻薬の取引に関する事件に首を突っ込みすぎて奴らに誘拐されたというのが妥当だろう。俺が陣頭指揮を執って王都警備隊と共に捜査に当たる」
 なんだ。いいところあるじゃん。
「じゃ、僕は公文書の手配だね……。大掛かりな捜査になるから書類用意しとかなくちゃ」
「ところで、こういうことに一番に首を突っ込みそうな奴はどうした?」
「パルのこと?」
「そうだ」
「パルなら暁の森にいってるよ」
「なんでだ?」
「ネリーはエルフの契約者なの。暁の森のエルフを呼びにいったんだと思う」
「そうか。では、後は頼むぞ。俺は現場に先に行って捜査をすすめる」
「あ、待って」
 私は思わずナトゥラムを呼び止めた。
「なんか用か?」
「私も何か手伝いたいの。いても立ってもいられなくて」
「お前にしかできないことはある。お前は内親王殿下だろ。セイにでも聞いておけ」
 ナトゥラムはマントを翻して私の部屋から出て行った。
「ルシーダ殿下」
 セイが優しい声で私の名前を呼んだ。
「今回の事件はね、小さいようで非常に大事なんだよ。六貴族の一人であるカルニカ家が重罪を犯しているんだ。しかも、プチグレン家の令嬢を誘拐している。軍を動かすことになるかもしれないんだ」
 私はセイに促されるまま、またソファに座りなおした。
「六貴族は王家に次ぐ権力がある。六貴族を裁くのは王族にしかできないことなんだ。慎重に事を進めてカルニカ家に有無を言わせない必要があるんだよ?」
 私は黙って頷いた。
「僕は公文書の発行する部署にいるから、すぐに捜査に必要な書類を用意できる。だけれど、それには承認が必要なんだ。王族のね」
「それが、私……?」
「そうだよ。承認をするって言うことは今度の事件について全部の責任を負うということなんだ。指揮をしなければならないしね。とっても重大なことだよ」
「でも、私は内親王で、政治にかかわれないって……」
「そのためのサーデライン殿下だよ」
 セイは企んでいるような笑顔を見せる。
「サーデライン殿下は政の第一線にいる。彼から事件に関する全権代理の文書を発行してもらえばいい。説得するのは君だよ?」
「大丈夫、それならできる」
「それと、家族への説明もだ」
 私は頷いた。
「じゃ、行こうか。まずはサーデライン殿下のところだね」


 サーデライン樣は私室にいるということだってので、私は彼の部屋へと向かった。私の部屋からは遠く、王の謁見の間に近いところにある。
「失礼します。ルシーダです」
 扉をノックしてから名前を名乗った。すぐに入ってくるように返事があった。

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