強襲

「ネリーの居場所が頒ったよ」
 ネリーが居なくなってから一週間。ここら辺がネリーの体力の限界だろうというところにきて、ようやく、居所がつかめた。あわてて私の部屋にきたのかゼラが肩で息をしている。
「どこ?」
「地図ある?」
「これを使って」
 私は捜査用に用意したベツヘルム国の地図をテーブルに広げた。ゼラはすっと長くて整った指を一点に置く。
「ここにいるって、樹木たちが教えてくれた」
「……本当に植物たちから教えてもらったのね」
「エルフだもの」
「ここは、カルカリア地方の関所があるところね。すぐに人を集めるわ。ゼラも出撃準備していて。ネリーを助けにいく」
 私は、ナトゥラムとパルをこちらに来るように伝言し、旅支度をする。
 私が至急の用事で呼びつけたというので、察したのかナトゥラムもパルも出撃の準備ができている服装だ。
「ネリーの居場所が頒った。場所はカルカリア地方と王都を結ぶ最初の関所。その近くのカルカリア家の息のかかった建物」
「パルとゼラ殿はネリー救出の別働隊を率いてくれ。ルシーダ殿下は俺と一緒に正面決戦だ」
「できれば、私もネリーを助けに……」
「ダメだ。領らないか馬鹿。俺たちは陽動だ。そして、六貴族を裁くには王族の力が必要だ。お前は腐っても王族の一員だろう」
 そ、そんなことは頒ってたよ。頒ってたけれど、願ってしまうのは人間ってもんでしょ?
「馬の足に直して約二日間の行軍です。ルシーダ殿下お気をつけて」
「ライアは来ないの?」
「私は、文官でございます。足手まといになるだけでしょう。留守をお守りしてます」
「その代わり、私たちジョーンズワード双子が殿下の護衛をいたします」
 武装したミシェーラとミズライルがそろって頭を下げた。
 ナトゥラムが率いているのは、ナトゥラムが第二師団の兵士たちだ。その先頭をナトゥラムが馬に乗り率いている。私もその後ろから馬に乗りつきしたがっている。パルとゼラが率いているのはパルが連れてきたのは第一魔術師団の魔術師の人たちだ。とはいっても五人。全員連れてくるわけにもいかないし、隠密行動をするので少数精鋭にしたのだそうだ。街道を行軍するときには家紋の入った旗を掲げて歩くので、街道を行く旅人の人たちは立ち止まり何事かという視線でこちらをみる。私が通過するとき決まって人々は頭を下げるのが気恥ずかしい。王族の人が通るときには恐れ多いので、顔を上げてはならないという習慣の所為だ。私も王宮に戻るまではそうやって頭を下げていた。
 なぜ、私が王族かと領るかというと、伝統的に王族は王宮の外に出る場合、最も尊い者が身に着けるという黒色の頭貫衣を身に着ける。そして頭には金の輪ッか。王旗と第一師団の旗が翻る。横風が私の髪を撫でる。
「今頃別働隊が、強行軍でカルカリア家の本家を取り囲んでいる最中だ。一網打尽だな」
 ナトゥラムが馬上で振り返って私に話しかける。私の返事がないのを不審に思ったのか、ナトゥラムが眉根を寄せてさらに私の顔を見つめてくる。
「……これで、よかったのかな……?」
「は?」
 ナトゥラムは馬鹿にしたような視線で私を見つめてきた。たしかに、親友を助けたいという私の願いで動いてくれているのだ。その言い出しの私が悩んでいるのがナトゥラムには理解できないのだろう。それは、育った環境の差としか言いようがない。人に命令するのが慣れている彼と、命令されなれていた私。この差は埋まりようがない。
「もっと平和的に、武力ではなくて解決できなかったのかなって」
 このまま私たちが勝利すればカルカリア家はお家断絶。主犯は確実に極刑だ。その場で切られても文句は言えない。ベツヘルム王国は麻薬が蔓ることをよしとはしないからだ。
「甘いな」
 ナトゥラムはきつい口調で言った。なんか苦いものでも食べたような表情だ。やっぱり、甘いのだろうか。しかし、ナトゥラムはそれ以上何もいわずふう、とため息をついた後普通の声音で言った。
「それが、お前のいいところだと思う」
 私は馬の手綱を手から離しそうになった。
 え? なんていいました?
 あの、ナトゥラムがっ「お前のいいところだと思う?」
 そんな……不意打ちだ。
 私は顔が赤くなるのがわかった。褒められるのに慣れていない。本当に、恥ずかしくて仕方がない。
「ありがとう」

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