大地を風が駆けぬける。空には天高く月が私たちを見下ろしていて小さい存在だと言っている様に思える。時折、焚き火のはぜる音がリズムを奏でた。冷たい夜の風が吹いても、ここは燥いた大地なんだと忘れさせてくれない。
「眠れないのですか?」
 私を交代で護衛してくれているミシェーラが寝袋に包まっている私に向かって声をかけた。
「いろいろ考えると眠れない」
「明日のことですか?」
「明日のこともある。ネリーが無事で居てくれればいいと思うし。それと、これからのことも」
 私は今回の件で政治的センスを発揮することになる。これまで「下賎」だの言っていた貴族たちが私の見方を変えるのか、そのままなのか予想をしておく必要があるだろう。あわよくば、私を政治の道具として利用しようとする人たちなのだから。考えれば考えるほど、悪いことを考えてしまう。こんなにも不安定な生活。
「殿下、空を見上げてください」
「星がきれいね」
 私はミシェーラに言われるままに空を見上げた。上限の月を取り囲むように夜空の星が空を埋め尽くすように輝いている。
「私は、あの白い星が好きです」
 ミシェーラは月の右横で小さく白く輝く星を指した。
「不安なことや、つらいときには空を見上げてあの星を見ます。あの星を見ているときだけ、あの星は私だけのものですから」
「私も、あの星を好きになろうかな」
「殿下、誰かと同じにする必要はありません。誰もが自分の心の中にたった一つの星を光らせばいいのです。それが、どんなに小さかったとしても、どんなに弱い光だったとしても。昏いとき、それが照らしてくれますから」
 そういわれて、私はもう一度空を見上げた。
 ちょうど私の真上にある青白い星が目に付いた。そうだ、あれはなんて星だっけ?
 結構好きかも知れない。
「ありがとう。ミシェーラ」

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