罪を犯し者

 やがて、夜が開け昨日と同じように馬に乗り行軍を続ける。昼前には到着する予定だ。遠くの地平線の向こうに、ぽつんとたつ城が見えた。あれが、カルカリア家の持ち物のようだ。ここから、パルとゼラが率いる部隊が横道にそれ、私たちが正面で派手に陽動している最中、裏から回りネリーを助ける算段になっている。
 すぐに城は私たちの目の前に迫り、ナトゥラムが開門を呼びかける。
「ベツヘルム王家、第一子ルシーダ殿下の軍ぞ。門をあけよ」
 返答の変わりに、城壁から雨のような矢が降り注ぐ。あわてて兵士たちは頭上に盾をかざす。
「それが返答か! よくわかった。全軍突撃!!」
 ナトゥラムは自らの剣を抜き、天高く掲げるとそれを前方の城壁向けて振り下ろした。兵士たちが声を上げながら走り出した。
「カルカリア家の私兵がすべて集められていると思う?」
 私はナトゥラムに尋ねる。
「それはないな。ここにいるのはむしろ、麻薬運びの実行犯たちではないかな。すぐに抵抗もやむさ」
 ナトゥラムの言うとおりだった。城壁の一角から進入を果たした兵士たちが城門へと上がり、門を閉ざしていたロープを切り裂いた。城門が重い音を立てて開かれる。
「全軍突撃」
 ナトゥラムは馬の手綱を握りなおし、自ら先陣切って城内へと馬を走らせる。私もその後に続いて馬を走らせる。馬上での戦いは、私は不慣れだ。いつもは両手に小太刀が二本なのだが現在は、軽い剣を一本聞き手である右手で持っている。
 それでも、城内には若干警備のための兵士たちが居るのか、私たちに切りかかってきた。なるべく派手な戦闘をして城内の目をこちらに向ける必要があったので、ミュリアティカム隊の者たちは派手に声を出しながら戦っている。
 私も高貴なものを現す服装のせいで、兵士たちに狙われる。それを効率よく防いでくれるのがミシェーラ、ミズライル双子だ。二人の連携は完璧で無敵だった。
 どうやら、首領たちは城内の奥に居るらしい。派手なやり取りをしているのに、でてこない。それまで騎馬だった兵士たちに、馬から下りるように命じてナトゥラムは建物の中に入った。自分たちが戦っている間にも間者を送り込んで、城の内部を探らせていたようだ。
 私も馬から下りて、ナトゥラムの後に続いた。



 城というのは、敵に攻められたときに相手を迷わせるように、迷路になっていることが多い。ここも同じようでかなり入り組んだ道になっているうえ、曲がり角が多い。曲がり角で待ち伏せをして魔法の正射を浴びることがあるので、うかつに先に進めない。
「ナトゥラム、魔法部隊をつれてないの?」
「魔法部隊は居なくても何とかなる」
 パルの部隊を混合にすればいいのに、と私は思うのだけれどそうはいかない事情でもあるのだろうか。
 次の曲がり角から魔術師が次々と魔法を使ってくる。どれも雷の魔法で威力も強い。あたった壁が黒くこげている。
 ナトゥラムが何人かの兵士の名前を呼んで、自分たちが潜んでいる前のほうへと移動させる。彼らはうなずいて、魔術師たちが使っている魔法が一瞬やんだ隙をついて廊下を走り抜ける。だが、その走っている最中に魔術師の魔法が完成し、彼らに向かって魔法が正射された。雷の魔法で人が黒焦げになる樣を私は想像したが、兵士二人は無傷だ。よくみると二人とも両手を前方にかざしている。両手の前には透明な障壁があるようで、そこから魔法が跳ね返った。魔法が跳ね返るたびに、彼らのしている指輪がきらりと光った。
 まさか、あれは錬金術の魔法跳ね返しの指輪……?
 障壁が張られたのをいいことに、ナトゥラムがそのまま廊下を風のように駆け抜け魔術師を切り伏せた。あわてて兵士たちが続き、ほかの魔術師も切りつける。
 魔法跳ね返しの指輪は、非常に希少価値の高い指輪なのだけれど惜しげもなく使うところが、すごい。命を守るためなら、値段なんてどうでもいい、というのがナトゥラムの考えなのだろうけれど。
 私たちはこうして順調に奥へと進み、ついに最後の部屋まで来た。
「さあ、観念してもらおうか。カルカリア家の坊ちゃん方」
 ナトゥラムが部屋の中に入るなり、守りを固めている男たちに向かって言い放った。
「このままで済むと思うなよ!」
「パパがどうにかしてくれるとでも、思ってる?」
 ナトゥラムが挑発するように言った。この部屋は結構広いつくりになっていてものもろくにない。たぶん、倉庫か何かに使っているんだろう。大人の男が総勢二十人入っても狭く感じない。
「そ、そうだ。パパは中書令だ。お前なんかすぐに、処刑してやる」

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