もしかして、このべらべらしゃべっている軟弱そうな若い男はカルカリア家の跡継ぎかなんかなんだろうか。それにしても、ナトゥラムが六貴族だってわかっていれば今のような言い方はしないと思うのだけれど。
 とにかく、こういうときのきめ台詞を私は言わなければ成らない。それが仕事だ。
「ベツヘルム王家、第一子ルシーダの名においてカルカリア家ならびに、それに加担した者たち。麻薬裏取引によって拘束します」
「下賎の女が偉そうに、貴族である僕を捕まえるのか! おかしいな」
 自分たちの敗北が決定的ではないことをいいことに、カルカリア家の坊ちゃんは高笑いをする。
「貴様、ルシーダ殿下を侮辱するのか」
 ミシェーラが抜剣して、今にも切りかかりそうだ。私はそれを手で制して言った。
「下賎なのは、麻薬で人を貶めようとするあなた達よ」
「この僕に口答えするのか! そうだ、牢に居るあいつ、あいつをこいつらの目の前で切り裂いてやれ」
 まさか、ネリーの事?
 何人かの兵士たちがその命令を実行しようと部屋を出て行こうとした。それを止めようとミュリアティカム隊の兵士が追いかけようとしたとき、曇った声がしてカルカリア家の私兵が入り口で倒れた。
「人質なら誰も居ないよ。助けちゃった〜」
 パルが杖を構えながら入ってきた。その背後にはパルの魔術師部隊とゼラに守られるようにしてかろうじてたっているネリーの姿があった。
「さあ、もう後がないようだけど?」
「うるさいっ。僕はお前なんか認めない。お前が王族であることを認めないぞ。卑しい身分のものを王族などと笑止千万だ」
 なんだか、貴族のバカ息子の割には語彙が多いみたいだ。
「お前を育てた親だって卑しい身分の、汚らしい庶民の癖に」
 私は頭の中で何かが切り替わるのを感じた。ひどく熱いのに、どこか冷めている自分が居る。
「育ての父と母を愚弄するな!」
「本当のことを言われると、怒るというのは事実みたいだっ。クズの人間は僕たち高貴なものが支配してやらないといけないんだ」
 私がなにか言い返そうとする前に、私とカルカリア家のバカ息子の間に誰かが躍り出た。一般の兵士の服装をした青年で、ターバンを深めにかぶっている。
「落ちたものだな、カルカリア卿」
 あれ……? この声は
「麻薬裏取引、誘拐など罪を犯すとは、六貴族の一員として恥と思え」
「何を偉そうに」
「俺の顔を忘れたか」
 人々の注目を集めるだけ集めさせて、青年はターバンをはずした。
「サ、サーデライン殿下……」
 カルカリア家の者たちはいっせいに頭を下げる。普通、私に対しても頭を下げるもんだよ。
「お前たちの悪行、すべて見聞した。その上、わが姉に対する罵詈雑言。忘れたとは言わせぬ!!」
「くっ……こんなところに、王族が二人も居るわけはない! 偽者だ、切ってしまえ」
 その声が合図となったのか切りあいが始まった。
 ミシェーラ、ミズライルの双子が私を護衛してくれるだけあって、私は大して剣を降らなくてもいい。だが、どうしても殴っておかないときがすまないやつが居る。
 カルカリア家の坊ちゃんはこの隙に逃げようとでもしたのか、護衛たちに守られながらじりじりと部屋の扉に向かっている。
 させるかっ
 私は、こういうときのために密かに持ち歩いていた、『雷の石』を坊ちゃんの行く目の前に投げつけた。
「どちらへ向かわれるのかしら? カルカリア」
 目の前で雷の魔法の爆発が起きて、カルカリアは一歩下がる。護衛たちが私の前に立ちふさがった。ミシェーラとミズライル双子がその護衛たちをひきつけてくれたおかげで、私はカルカリアと対峙することができた。
 カルカリアは決心がついたのか、持っていた剣を構えなおした。だけど、あなたの腰へっぴり腰だよ。
 私は目線にすら殺気をこめて切りかかった。今は、私の得意とする小太刀二刀流なので、思う存分剣を振るうことができる。右で踏み込んで相手の剣の油断を誘い左で相手の鎧と鎧のつなぎ目を狙って切りつける。
 ダンスを踊っているような、それでいて相手に決まったリズムを感じさせない切り込み方でカルカリアを追い詰めて行く。
「わかった、謝るから。許して」
 自分に分が悪いと思ったのか、カルカリアは半分哭きそうな表情で私に懇願する。

next