「誰が許すもんですか! 私のことはどういわれてもかまわない。だけど、育ての両親を侮辱したこと、親友に死にそうな目に合わせたこと、絶対許さない」
私は懇親の力をこめて、右手を振り上げた。金属のぶつかる澄んだ音がして、カルカリアの握っていた長剣が中を舞った。地面に落ちたそれを拾おうと屈みこんだカルカリアの頸筋に、小太刀を突きつけ、長剣を私の片足で持ち上げられないように踏みつけた。
「これで、終わりよ」
勝負があった、とわかるとすぐに兵士たちがカルカリアを捕縛する。うなだれたカルカリアを兵士たちが外へと連れ出した。
私は、ほっとため息をつくとゼラに守られたままのネリーへと駆け寄った。
「はやい、迎えね」
「大丈夫?」
私が聞くや否やネリーは微笑んだかと思うと、気を失った。ネリーの額に手を当てるとものすごい熱がある。
私はあわてて安静に寝かせられる場所の確保を命じた。どうせ今日は一泊しなければ王都に戻れないのだ。ゼラにネリーを抱えあげてもらって、私はそのままネリーが寝かせられる部屋まで連れて行った。
「ルシーダ、ネリーの手当て任せてもいい? ……本当は、僕がしたいんだけど、僕、男だし。ネリーもそのほうが安心すると思うんだ」
どういう状況でネリーがいたのかわからないけれど、ずっとそばに居たいはずのゼラがそんなこというだなんて、よっぽどひどい状況だったに違いない。
私は力強くうなずいてゼラから部屋に出てもらった。
まず、ネリーの体の汚れをどうにかしないといけない。傷の手当をしたくても汚くては化膿してしまう。とりあえず体についている土ぼこりなどをふき取るために、お湯を持ってきてくれるように、近くに居た兵士に頼む。
私は、手渡された桶に入っているタオルを絞ってネリーの体を拭き始めた。体中が泥だらけだ。ところどころには、石畳に長時間居たのかあとが残っている。泥だらけの服を脱がせ、後背も足の裏もきれいに拭いた。次にネリーの髪の毛にこびりついている吐瀉物だ。無理やり薬を飲まされて、それの拒絶反応か大分吐いたようだ。私は何度も丁寧にタオルを洗い、濃い彩の金髪を丁寧に拭いた。
もっと早く、助けてあげたかった……!!
ネリーに私の予備の服を着せてあげる。そのあとで、私は傷の手当を始めた。
錬金術師は野外で錬金術の材料の調達を行うので、レンジャーとしての知識も学ぶ。私は医療班から借りてきたラベンダー水をつかって、ネリーの傷口をぬぐう。そのあと、ラベンダー水をつけたガーゼで押さえ包帯を巻いた。次に、熱を下げるためにウォトカでぬらしたガーゼに軽く火をつけ消した後、油紙ではさんで首の前と後ろにつけて、包帯で巻く。あとは、何度かに分けて解毒剤を飲ませてあげるだけだ。
おそらく、扉の外で待っているであろうゼラを呼ぶために、私は部屋の扉を開けた。思ったとおり、壁に寄りかかって座って待っているエルフ王が居た。
「ネリーはまだ寝てるけど、手当てが終わったから」
「入ってもいいかい?」
「どうぞ」
彼は恐る恐る、といった感じで部屋に入った。顔色が少しはよくなっているネリーをみて安心したのかゼラは深いため息をついた。
「あのさ、ゼラ……ネリーさえよければ、ネリーの体が治るまで暁の森で休養させてあげられないかな?」
本当は私が全部面倒を見てあげたい。だが、王宮は欲望や怨念、ねたみがこもっている。あんなところに病のネリーを連れ帰っても落ち着いて静養できない。だからといって、私が頻繁に城下町に下りてネリーの家で面倒を見ることもできない。事件が事件だから病院に入れるのも気が引ける。となると、一番安全なのはエルフ王の近くなのだ。
「僕はかまわないよ。起きたらネリーに聽いて見て」