まず、前総督からいままでの引継ぎを受けなければならない。前総督はパシュール家のロマディだ。私はあったことは無いけれど、ライアの話だと中年の肉付きがよろしい男性らしい。堕情な生活をしすぎてしまったようだ。
 総督府はマロウの町の中でも高台と称してもいいところにあった。周りの建物に比べて豪華にできているのですぐに総督府だというのがわかる。総督府までやってくると、前総督であるロマディとその部下たちが出迎えてくれた。
「ようこそマロウへ。お待ちしておりました、ルシーダ殿下」
 少し肉がつきすぎている、中年男が笑顔で挨拶をした。前総督のロマディだ。
「出迎えご苦労。殿下はお疲れなので部屋に案内してくれ」
 一番の先頭を行っていたナトゥラムが変わりに答えると、馬から下りた。
「いえ、歓迎の準備ができております。皆様方もお食事がまだでしょう。どうぞこちらに」
 そういえば、ちょうど夕食時だった。荷物の整理は後にして、先に食事をしてもいいかもしれない。
「どうなさいますか?」
「先に食事にしましょう。先発隊も一緒に呼んでくださるように言って」
 ライアが問いかけてきたので、私は答えた。王族のしきたりとして、公式の場での会話は直接家臣たちと交わしてはならないことになっている。側近の誰かを通じて自分の意を伝えることになるので、私はその役をライアに任せていた。王族が直接話してもいいのは六貴族や、それに付随する名門の血筋ということらしい。ちなみに、ロマディのパシュール家だがかろうじて上流といえる血筋である。私が直接言葉を交わしてはならない血筋の人だ。
 面倒な習慣と思うときもあるけれど、口下手な私に代わってライアが適当な表現に変えてくれるので助かるときもある。
 ロマディがその突き出た腹を満足そうに揺らしながら、こちらです、といいながら総督府の中を案内し始めた。建物の中は日差しがあたらないのでさすがに涼しい。ただ、外も若干派手な帰来があったけれど、内装はもっと派手で豪華だった。権力の象徴だから多少飾り立てるのは仕方が無いとしても華美すぎるのも如何か。素人目にも高そうだとわかるツボだとか、モザイク画だとかが飾られていた。
 私と幕僚たちが案内されたのは、パーティーを目的とした広々とした部屋で、毛の長い細かい蔦と花の模様の入った絨毯が敷かれていた。円陣を組むように、絨毯と同じ柄の布で作られた円形のクッションがおいてある。円の中には豪華な料理が並んでいる。
 私たちが席に着くと、ロマディがまた口を開く。
「ルシーダ殿下のご到着、胸が張り裂けるほどうれしく思います。冷えた葡萄酒も用意してございますので、ご堪能ください」
 胸が張り裂けるほど、ってなにこの人は焦ってるんだろう。なんかやましいことでもあるのかな?
 私はお酒を飲む気にはなれなかったので、オレンジを絞り水で薄め蜂蜜で甘みをつけたオレンジ水をいただくことにした。ゴブレットで飲むオレンジ水はよく冷えている。料理は大皿に盛られたものをそれぞれ自分たちのさらにとりわけ、食べる。円陣で食べることによってみな上下関係の無い仲間である、ということをあらわしているとも言うけれど上下関係が無いのは食事のときだけである。
 私の右隣はミシェーラ、左隣はセイ、その隣がライア、ナトゥラム、パル、リコリス、ミズライルの順番に座る。
 前菜はチキンとクルミのペーストチェルケズ・タブウだ。鶏肉をよく煮込んで、胡桃とバターのソースがかかっている。よく煮えているみたいで、鶏肉が柔らかい。深皿に入れてあるのは、スープだ。トマトノスープテルビィエリ・ドマテスチョルバスだ。トマトドマテスと玉子のスープでトマトドマテスのやさしい味がするスープだ。私は深皿に入っている大きいスプーンですくって私のとり皿用の小さなカップに注ぎいれた。まだ、出来立てみたいでほんの少し湯気が見えた。夕日色のスープをスプーンですくって口に運んだ。おいしい。
「殿下っておいしそうにご飯を食べるよね」
 隣に座っているセイが私の顔をまじまじと見つめて、つぶやいた。
「そ、そんなじっくりみないでよ」
 恥ずかしいところを見られたわけでもないのに、なんだか顔が熱っぽい。
「ふふふ。ほら、取れないのがあったらとってあげるよ」

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