セイと話すとよく見る何を考えているんだかわからない微笑を浮かべて、私に手を差し出した。私はその好意を受けることにして、とり皿を渡す。
挽き割り小麦のピラフブルグル・ピラウと、鶏肉のグリルウズガラ・タヴックとって」
鶏肉のグリルウズガラ・タヴックは一本?」
「一本」
 挽き割り小麦のピラフブルグル・ピラウ挽き割り小麦ブルグルをバターで炒めた、たまねぎとトマトドマテスとあわせて水で柔らかくなるまで煮たものだ。家でちまちま作ったものよりも、こういう大人数分をつくった挽き割り小麦のピラフブルグル・ピラウの方がなぜかおいしい。ひよこ色した挽き割り小麦のピラフブルグル・ピラウのとなりに、乗せてもらったのが、鶏肉のグリルウズガラ・タヴックだ。鳥の手羽をオレガノとにんにく、塩コショウをしてオリーブオイルをまぶし、炭火でまわしながら焼いたものだ。香ばしい鶏肉の味がして、臭みとか感じない。
「ナトゥラム〜。僕にオリーブオイルを使った根セロリの冷製ゼイティンヤール・ケレヴィスとってよ」
「自分で取れよ」
「届かないってば」
 ナトゥラムは、やれやれとため息をついてセロリ、ジャガイモ、にんじん、たまねぎなどが煮込んだオリーブオイルを使った根セロリの冷製ゼイティンヤール・ケレヴィスを取り分けた。煮込まれたといっても、冷たく冷やされていてのど越しがいい。
「レモンかけるか?」
「かけて〜」
 レモンは櫛切りになって近くの皿に盛られているので、とり皿にレモンを添えるだけでもいいのに、わざわざナトゥラムはレモンを絞ってパルにとり皿を手渡した。
 意外と面倒見がいいみたいだ。嫌々やってるのに。
「殿下、本日のお食事はいかがですか?」
 ロマディが私のそばまでやってきて、ご機嫌伺いをした。
 おいしいということを、私は直接伝えてはいけなかったので誰かに言ってもらおうと隣に座っているセイが満面の笑顔で私を見つめている。
 なんか、たくらんでる笑顔だな。
 私はセイにおいしいといってくれるように伝えた。
「殿下は非常に満足されているようですよ」
 セイはなれた口調で答える。それに気をよくしたのか、ロマディはさらに言葉を続ける
「殿下、実は私には殿下と同じ年頃の息子がおりまして、父親の私が言うのもなんですが見目もよく、殿下のそばに仕えることができれば喜びと思いましょう」
 ひそひそ声で話してはいるが、となりにいるセイには全部筒抜けだ。しかも、これはアレだ。私の恋人にいかがですか、っていう売込みだ。私はどうやって答えようか考えていると、セイがまたにっこりと笑って返事をする。
「殿下はそういった話はあまり好かれませんよ。どうしてもというのなら、僕に勝てるぐらいのご子息を連れてらっしゃい」
 口元は笑っているけれど、目は完全に笑っていない。恐ろしい……! なんか寒気までしてくる。
「いえ、は、し、失礼しました」
 ロマディは蛇ににらまれたかえるのように蒼冷めた表情で、あわてて逃げ去っていった。
「ルシーダ殿下、たぶん今後このような輩が増えるから、十分注意するように」
「は、はい」
 私はうなずくことだけしかできなかった。だって、ものすごく怖い微笑だったのだもの。

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