「セイ、貴方の得意分野だと思うんだけど」
「なに?」
「ロマディのココ最近の収支を調べてきてくれるかしら? ちょろっとロマディの女官たちをとりこにしてくれれば簡単だと思うんだけど」
「……殿下は僕がそういう人間だと思ってるの?」
「違うの?」
「もう、殿下ったら嫉妬ぐらいしてくれてもいいのに〜」
 嫉妬って……。
 いや、そんな私とセイは恋人同士じゃないって。
「黙ってるなんて、嫉妬してくれたって解釈しちゃうよ?」
「……違います」
 私が嫉妬してないってことだってセイは分かっているのに、いつも口から出てくるのは甘い口説き文句ばかりだ。それが、彼の才能だと思う。
「収支については、証拠を押さえてきてほしいの? できる?」
「お役に立ちましょう」
 セイはあの魅力的な笑顔をみせて一礼した。


 いち早く私の元に報告に来たのは、ナトゥラムだった。ナトゥラムたちが港へ駆けつけたときにはほとんど海賊たちは撤収しようと準備しているところだったという。それに追い討ちをかけたものの、水軍の準備がないため陸からのわずかな追い討ちしかかけられなかったという。
「砲台はないの?」
 経費には糸目をつけるな、といってあるのでまさか砲台の弾がないなんてことは言わないはずだ。
「ここの砲台はロマディ総督が掌握していて、鍵を持っている役人を切らないと手に入りそうにない状況だった」
 砲台への入り口の扉にすべて鍵をかけ、火薬庫にも鍵をかけているという。そのカギはロマディ総督に命ぜられた側近が持っていて、そいつに目通りするのにも時間がかかったという。
「私の名前を遠慮なく出してもかまわなかったのに」
 もちろん、ナトゥラムの優秀な部下がやったことだから私の名前ぐらい出したのだろう。それでも、渡さないということは私に対して何か言ったに違いない。
「殿下の耳を汚すようなことを言ったそうだ」
「構わない、再現して」
「『侍妾の子が内親王殿下だと、笑わせるっ。お前らはその女のスカートに尻尾をふっている犬だ!』とか『女は温和しく王宮の奥で、男の慰みになっていれば良いものを! そのような下賎のものであれば得意だろう』などといったそうだ」
 私のすぐ近くで、剣に手をかける音がする。
「落ち着いて、ミズライル。なにもナトゥラムが言ったわけではないから」
 すみません、とミズライルが謝る。謝る必要はないのに。
 それにしても、この言いよう。ロマディの側近のものがそれだけの大口を叩くのだ。ロマディ本人もそういう考えだと思って良いだろう。主従関係は同じ思考を持つものが多いのだから。こんな風に言われることぐらいわかっていたし、王宮にいたころも面と向かって言われたこともある。ミズライルやミシェーラが護衛してくれているおかげで大事になったことはないけれど、まさに『慰み者』にさせられそうになったことだってある。
 王宮に出入りできる身分を持っていなければ、人間として扱わないという悪き風習がいまだに残っているのだろう。だから、身分の低い女と見れば欲望のはけ口として扱いたがる。
 それでいて、あの私に対する媚の売りようときたら……。長いものには巻かれろという主義なのだろうけれど、爪が甘いとしか言いようがない。

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