上目遣いに呟くセイの姿は凶悪なほど可愛い。時折ものすごく男の子らしいのに普段は女の子よりも可愛らしいところをよく見せる。そのギャップがまた、女の子をとりこにしてしまうのだろう。
「わかった……わかったから、話を進めて」
 自然と紅くなるほほに手を当てて、静まれと心の中で念じる。そうよ、私はこの手の美形を見慣れてないから紅くなっちゃうだけなんだったら!
「ここにあるのはロマディの収支家計簿の写し。で、こっちは……」
 羊皮紙を取り出して、収支家計簿の写しと机の上で並べる。書かれている項目は同じように昨年度の収支だが、金額が違う。
「なんだ、この用途不明金って……」
「ワイロかな」
「……献金の額がおかしい」
「誰かから結構もらってるみたいだね」
 これって、もしかしなくても裏帳簿!?
「こっちの裏帳簿は本物だよ。無くなったってロマディは公にして騒ぐことができないからって持ち出しちゃったっ。ほら、ここにロマディ家しか仕えない家紋入りだからもう、証拠はばっちり」
 声に羽が生えているんじゃないかと思うほど軽い調子でセイは報告した。
「さすがねセイ。ありがとう。……ついでに明日、大掃除してみない?」
 私が深い笑みを浮かべると、セイは用件を理解したようで同じように企んでいる者の笑いを浮かべた。
 どこからか、威勢のいい声がした。女性にしてはハスキーで男性にしてはすこし高い声だ。
「なんだ貴様は」
 突然現れた人に、海賊たちは誰何の声をかける。
「お前らのようなやつら見てると虫唾が走るんだよ」
 私は押さえつけられながらも、声の主の容姿を確認した。燃えるような赤毛に、よく焼けた小麦色の皮膚。眸は空の色に綺羅綺羅と輝いている。顔立ちは中性的で、男にも女にも見えた。
「こいつからやっちまえ」
 海賊たちが襲い掛かる。それを難なくとさける赤毛の人。
「俺のことがわからないだなんて、お前らモグリだな?」
 そのセリフとともに、指先を私の向けると私を押さえつけていた男の体から力が抜ける。
「な、なにをしやがった……」
「ふふ、それは秘密」
 彼はすばやく私の手を引いて、ミシェーラの方へと体を押した。勢いをつけられていたので私は躓きそうになりながらミシェーラの元にたどり着いた。
 彼は、襲い掛かってくる男たちを手に持っていた小太刀で切り裂いた。それは本当に神へささげる舞を見ているようで神々しく美しかった。
「怪我はないかい?」
「……大丈夫、ありがとう」
「そっか、じゃあな」
「待って、名前を教えて」
「俺は、アリフ」
「私、ルシーダ」
「そっちの綺麗なお姉さんの名前も知りたいな」
 アリフは片目をつぶって、ミシェーラに微笑んだ。ミシェーラは無表情のまま名前を名乗った。
「いずれ、また会おう。ミシェーラ……ルシーダ」
 颯爽ときびすを返していくアリフだが、今のセリフだと私ではなくてミシェーラに興味があると言わんばかりのセリフじゃないか。
 そりゃ、私は美人でもなんでもない単なる女の子だけど。
 海賊だって私が上玉だといったのは、来ている服が高価そうだからだ。
「さ、急ぎましょう」
 私はミシェーラに促されて総督府までの坂道を駆け出した。

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