私は自然と口からお礼の言葉が次いでた。よくよく考えてみれば、彼らの組織は法的に認められたものではないのでお礼を言う必要なんてまったくないのだけれど、このときはどうしても御礼が言いたくて仕方がなかった。
「もし、よければ教えてくれる? この間町を襲った海賊団を追跡しているのだけれど、なにか知らないかな?」
 私の言葉にアリフとシャイファが驚いた表情をしている。
 なにか、変なこといったかな?
「奴らは金のためなら何でもやるさ。本拠地はしらない」
「そっか……。私は、もう戻っていいのかな?」
「ああ、自由に通ってくれ」
 意外とあっさり通してくれたな、と私は思った。もっといろいろ条件を突きつけてくるかと思ったがそうでもないようだ。彼らのことはほうって置くことはできないから、海賊の問題がひと段落したら考えるようにしよう。
 私がみんなのところへ戻ると、心配そうな表情をして船から置いて待っていたミシェーラに最初に出迎えられた。ところどころ擦り傷の残る私の体にミシェーラは何か言いたそうだったが、大丈夫、と一言だけ言った。総督府に戻ったらちゃんと説明することにした。とりあえず、進んでも問題がないことを船長に伝え、船を進めてもらった。
 無数の小島を通り抜けると、ドアリア海へと出る。ここからロウラン、ヌビアなどへ向かうこともできる。
「今日はそれほど混んでませんね」
 船長がいつもなら、もっと船の数が多いと教えてくれた。海流の関係で本日マロウに来るのは少ないのだそうだ。それでも、私の目には信じられないぐらいたくさんの船が海の上をすべるように行き来している。
「海賊のやってくる航路を再現してくれる?」
 帆船がゆるりと方向を変えて、この間の襲撃のときと同じ航路をたどる。
「調査によると、海賊たちはここら辺をかなり蛇行していたみたいだよ」
 パルが調査書を見ながら教えてくれた。
「船長、蛇行してこの航路を進むことはできますか?」
 リコリスが私の意を受けて質問をしてくれる。私は詳しくリコリスに指示を出していないのだけれど、的確にその意図を汲んでくれているようだ。
「この船では無理ですよ。推進力を魔法で制御しないと」
「そんなこと、可能なの?」
 私はこっそりパルに耳打ちをした。
「可能だけど、僕ならそんな魔法力のムダはしないね。船が動いている間魔法をずっと維持していないといけないんだよ? 僕なら、何か媒体を用意するね」
「その媒体は錬金術師がつくったのかな?」
「それが妥当だと思うよ」
 そうなると、海賊には優秀な魔法使いと錬金術師が味方になっている可能性があるか。
「船長、後方から不審船が近づいてきます。こちらの呼びかけにも応答しません」
 船長が船の位置を確かめている間、私は船尾へ走り不審船を目で確認した。肉眼でも分かるぐらいに接近してきている船がある。旗は出ていない。
 やった。誘いに乗ってきた海賊船だ。
「船長、警告に応じないようであれば臨戦体制をお願いします」
 リコリスが私に代わって指示を出してくれた。
「臨戦って、こちらはだいぶ兵が少ないはずですが」
「今回は追い払えればいいのです」
 船長はあまり納得していないようだったが、私はパルとリコリスに作戦を説明した。なるべく派手な魔法を使うこと、戦っているのが総督府からも見えるようにすること。
 さあ、これからが楽しいショーの始まりよ。

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