ルシーダ殿下の大掃除

 向こうの船のほうが性能がいいようで、すぐにこちらの船に追いついてきた。いまは向かい風だというのに、これほどの推進力ということはあきらかに「何か」をつかって速度を得ているのだ。いかにも絵に描いたような柄の悪そうな連中がブリッジで待ち構えている。お互いの距離が大砲が届くところまで近づくと一斉に火を噴いた。
「殿下お下がりください」
 ミシェーラが私をかばうように目の前に立ちふさがった。だけど、船長室なんかに隠れたら指揮も取れないし、追い詰められたら逃げられないじゃないの。
 私は小太刀を抜き放って、彼らがこちらに上陸してくるのを待ち構えた。
 海賊の一人が投げ縄で、私達の船と自分達の船を近づけて固定させる。すぐに板が渡せられ海賊達がなだれ込んでこようとした。パルは杖を軽く一振りすると、渡し板の出口のところに巨大な氷柱を出現させた。勢いあまった海賊達が次々と氷柱にぶつかり海へと雪崩落ちる。船体をつかんで這い上がってこようとするが、それを船員達が石や板の切れ端を投げて再び海中へと叩き落している。
 それでも、何人かはマストのロープを利用してこちらに飛び移ってきた。空中にいるときを狙って弓矢を射るが簡単によけられてしまった。
「三分の一ぐらいは乗せてしまったかしら?」
「ここまでできれば上等です」
 リコリスがにこりとも笑わずに私の問いに答えた。リコリスは弓の名手で、弓矢を二本構えて早撃ちをしている。
 私もまだ接近戦ができるほど海賊達が近づいてこないので、遠距離にいる海賊に向けて雷の石を投げつけている。青白い光が上空へとあがる。
 とっさに背後に気配を感じて、私はよこに飛びのいた。海中に落ちた海賊が船体の縁に上って上に上がってきたのだ。下卑た笑みを浮かべて、海賊は私を見つめる。ちょうどいい獲物だとでも思われているのだろう。海賊は手にしている斧を振り上げて、私に切りかかる。私は小太刀で受け止め、あいているほうの小太刀で切りつけた。
 男が怯んだすきに、私は距離を開けた。そこへすかさず駆けつけたミシェーラが海賊を切り伏せた。
「殿下、お怪我は?」
「大丈夫、ありがとう」
 周囲を見渡すと、そろそろ決着がついてそうだった。反撃している海賊達に降参するように勧告し、気絶しているものも含めてロープで縛り上げた。海賊達が乗っていた船をこのままにしておくわけには行かないので、あとで回収する手配をした。
 港へと戻り、縛り上げられている海賊達をパルとリコリスが先導し引っ立てている。行き先はもちろん、総督府の牢屋だ。
 リコリスたちには、海賊達に尋問するように頼んで、私はミシェーラを連れて総督府の自室へと戻った。
 部屋に戻ると、数人の兵士たちとその先頭に立つロマディが待ち構えていた。
「何事かしら?」
「政変ですよ。殿下。あなたは少しばかり賢すぎたようだ」

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