マロウの休日

 私は護衛当番であるミズライルと心配性のライアには、今日アリフとデートすることを伝えた。ミズライルは昨日その場にいたので、頷くだけだったがライアときたら血相を変えて、私の肩をつかんで揺さぶりながら問い詰めている。
 ま、まって。揺さぶりすぎだと思うよ。
「な、なぜでございますかっ。殿下は確かにお年頃でございます。しかし、よりにもよってどこの馬の骨とも知れないあんな男と遊びにいくだなんて……!! お考え直しくださいませ。せめて、まだ、六貴族であるアラニカ殿やミュリアティカム殿ならまだしも。ああっまさか、新しい趣向をお求めでございますか?! 殿下はいつの間にやらそんな遊び人になられたのでしょう。真面目で仕事一辺倒であったのに、このマロウに来て開放されてしまわれたのですか?!」
「ライア……遊び人だなんて。違うよ。……って聞いて!!」
 いつまでたっても埒が明かないので、私は事の成り行きを見つめているエヴトキーヤに視線だけで助けを求めた。エヴトキーヤは察してくれたらしく、「係りのものをお呼びしますね」と言って部屋から出て行った。
 係りの者? 係りの者ってなにーっ?!
 私が、永遠と語っていそうなライアの訳のわからないストーリを聞かされながら待つこと数分、エヴトキーヤに連れられてきたのは、ナトゥラムだった。
 あれが、係りの者……?
 私がものすごい勢いでライアに語られているのをナトゥラムはひとしきり腹を抱えて笑った後、持ち前の腕力でライアと私を引き剥がした。
「落ち着け、ゴールデンロッド卿。こんな殿下にも何か策があってのことだ」
「いや、しかし……!!」
「いいから」
 ライアのすごい勢いでナトゥラムへ話し出そうとするのを、ナトゥラムは一言で一掃した。その迫力に負けたのか、それとも我に返ったのかライアは今まで開きっぱなしだった口を閉じた。
 さすが、係りの者……!
「見てのとおり、私たちには水軍が必要でしょう。しかし、陸の戦いには得意でも、水上の戦いに得意ではない。育てるのにも時間がかかる……となれば、水上の戦に長けている者の協力が必要でしょう」
「だからといって、あんな海賊同然の者たちに助けを求めなくても、傭兵を雇いくださいませ」
「ライア、私は海賊団の滅亡を望んでいるの。戦に必要なのは、命令系統の整ったよく訓練された兵だと教えたのはあなたよ。傭兵にはそれを期待できないわ。予備戦力にはなるかもしれないけれど」
 ライアもきっとわかっていてあえて、反対の意を唱えているのだ。こういうとき、賛成するものしかいないのと、反対の意を唱えてくれるのがいるものとでは大きな違いが出てくる。なんでも賛成されてしまっていては、正しい命令が出せるとも限らない。
「あの集団の戦闘能力はこの間確認した。よく訓練されている。特に、頭であるアリフの下でよくまとまっている。正規軍、とまではいかないだろけれど、海賊退治には協力してくれると思う。彼らは……少なくともアリフはマロウが好きだろうから」
 私の決意が固いのと、理路整然とした説明にライアは納得したのだろう。それでも、渋々という表情で私を送り出した。

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