私の右手をつかんで、アリフは港から総督府へと向かう道を歩いた。なんだかこうして手をつないで歩くのが習慣になってるけれど、アリフはこういうところを見られて困る相手とかいるんじゃないだろうか。
 だけれど、口にだしたのは違うことだ。
「もしかして、私が本物かどうか確かめるために送ってくれるの?」
「ないとは言わない……だが、女の子の夜の一人歩きはいただけないな」
 なんだ。意外にフェミニストなんだ。
 総督府の前には、門番が二人いる。私の知らない門番だ。これじゃ、顔パスで中に入れない。
「さ、どうやって帰るんだ。お姫様」
 アリフったら楽しそうに私を見ている。
 こっちにだって、考えがあるんだから。
「あの……ルシーダ殿下直属の親衛隊のミズライル呼んでもらえませんか?」
 門番が不振そうに私とアリフをみた。
 まあ、確かに怪しい奴に見えるだろうけど! ちょっとは私だって気がついてほしいような
 ダメかな?
 単なる街娘がいきなり親衛隊呼び出しちゃまずいか……となると。私が知っているのは門番の……ジェンマ君ぐらいかな……。
「ジャンマ君から、何か聞いてない?」
「なにかって……」
「どうしたんですか」
 門番の声をさえぎるように、私が知っている門番のジェンマ君が駆けつけてくれた。同じ歳で、今年総督府に採用されたばかりなんだそう。
 ジェンマ君が私を見て、称号で呼びそうだったので私はとっさに、自分の口の前に伸ばした右手の人差し指を置いて、言ってはダメだよと合図を送った。
「ミズライルに会いたいなって頼んでたの」
「そ……それはすぐに、ミズライル殿をお連れします! そこの詰め所で人をお待ちのようでしたので!!」
 ジェンマ君は私の正体を知っているので、ものすごく緊張した樣子で返事をすると兵士たちの詰め所へと走っていった。私の後ろではアリフがくすくす笑っている。
「なに笑ってんのよ」
 私はアリフにしか聞こえない音量で話しかけた。
「……お前が、内親王殿下に見えないのは誰の目が見ても一緒なんだなと」
「……もう……っ」
 アリフが私の耳元で囁いた言葉に、頬を膨らませていると、アリフはおかしそうにまた笑って、言葉を付け足した。
「でも、俺はそこがいいところだと思ってるぜ」
 その言葉は思ったよりも私の深いところを突いてきたようで、鼓動が高くなったかと思うと急に顔が熱くなった。
 どうしよう、今、顔がものすごく赤いに違いない。
「顔、赤いよ」
 アリフったら、指摘しなくてもいいよ。
「ほんと、お前は俺の……」
「お待たせしました」
 ミズライルが私の元に駆け寄って一礼する。私も同じように会釈して、二人の門番が呆然と見守る中、総督府に足を踏み入れた。
「アリフ、来る?」
「いや……俺はあんたを送るためにきたんだし。じゃ、またな」
 そういったアリフの唇が私の髪を掠めていったのを知って、私は再び顔を真っ赤に染め上げた。
 な……な……なんなのよ! あの女たらし〜〜〜〜〜〜っっ

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