異国の王子

 ミズライルに連れられて、自分の部屋のある場所まで歩いていく途中で私の専属の侍女たちが慌てて走りよってきて、王族らしい格好になるように飾り付けられていく。私は普通に歩いているだけなんだけど、侍女たちはそれに合わせてちゃんと、髪飾りやブレスレット、服の装飾などをつけていく。すごいよね。この技。
 部屋の前では、ライアが困った顔をして立っていた。
「どうしたの?」
「少々、困ったことが発生しました。お部屋でお話します」
 ライアが私の帰りを待っているなんて、よっぽど重要なことが起きたんだ。
 執務室ともいえる部屋に入って、エヴトキーヤにお茶を入れてくれるように頼んでから、ソファに座った。
 ライアにも座るように勧めて、相手が話すのを待った。
「王太子殿下から、他国の王族の留学生をマロウに滞在していただくというご命令がございましたね」
 私は頷いた。
「本来なら、留学生がマロウに訪れるのは一週間後のはずだったのですが、……すでに本日ご到着されています」
 え?
 なんで、はやいの?
「予定では、留学生が到着する前に、横領事件と、海賊退治をやってしまうつもりでしたが、そうもいかなくなってしまいました」
「だからといって、手を抜くわけにはいかないわ。多少、裁判は早くなるかもしれないけれど……。ライナス殿下滞在中に生臭いことはしたくなかったのだけれど、早めに海賊退治に行く必要があるわ」
「御意。では、装備などの準備をすすめます」
「ナトゥラムとパルの部隊に、すぐに出動できるように伝えて」
「かしこまりました……それと、殿下、ライナス殿下が応接室にお待ちなので、正装をして、お出迎えしてくださいませ」
 せ、正装〜〜〜?!


 ライアは準備が良すぎると思う。どこに控えていたのか、ライアの合図で十数人の侍女たちが部屋に入っていて私を取り囲んだ。
 私は何も言えない状態で、あっという間にベツヘルム王国で決められている正装へと着替えた。初めてこの服を着たときには、あまりの着にくさと、動きにくさ、似合わなさと三拍子そろいすぎてて鏡に移った自分を見て、鏡を叩き割ってやろうかと思ったけれど、今、映る姿を見てもそこまで嫌悪感はない。
 こんなひらひらした服を着るのを見慣れてしまったのだとしたら、目が腐ってるのかもしれない。
 ライアに歩き方を強制されたおかげで、飾り立てられた服を着てもさほど邪魔だとは感じなくなったのは確かだ。ライナス殿下に会いに行くということは、私がベツヘルム王国の代表なのだ。私の印象がそのままベツヘルム王国の印象へと変わるから、滅多なことはできない。
 前評判を聞いた限りでは、ライナス殿下はおっとりとした気の優しい王子様らしい。跡継ぎ問題で策謀がめぐらされているらしいから、居心地も悪かっただろう。
 私は、全身が映し出される鏡に映った「内親王殿下」の格好をしている自分に向かって微笑んだ。
 大丈夫、私にはみんながいる。
 私の態度一つで、私の身近な人を守ることができるのだ。
 私はゆっくり深呼吸して、内親王殿下の仮面をかぶって部屋から出て行った。

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