ライアを付き従えて、護衛にミシェーラをつれて応接室に向かった。応接室の扉をあけてくれたのは、エヴトキーヤだった。
 私が部屋に入るなり、大きなクッションの上に座っていた青年が立ち上がった。ベツヘルム王国では見かけないチュニックとズボンのデザイン。黒の布地のいたるところに金糸で刺繍がされていて、見ただけで最高級の作りだとわかる。ベツヘルム王国と違って、男性の場合は髪飾りや耳飾はしない習慣なんだそうだ。そのかわり、服に宝石がいくつか縫いこまれていて煌びやかだ。
 けぶるような金髪が立ち上がったときにゆれて、一瞬だけ王冠に見えた。私が向かい側に立つと、青年は私の目の前で膝をついて私の右手を恭しくつかんで唇を軽く触れさせた。
 それが、ルクセリア王国の挨拶だとわかっていても頬が自然に紅くなる。
「はじめまして、プリンセス・ルシーダ」
 膝を突いたまま彼は、私を見上げて微笑んでから立ち上がった。
「ルクセリア・キングダムの第四王子ライナスと申します」
 落ち着いた雰囲気に、優しい声音。微笑んだ顔が、優しい太陽の光のようで私は思わず見とれてしまった。
「遠いところをようこそ、ベツヘルム王国へ。歓迎いたしますわ。ライナス殿下」
 私は、最上の声音を出すことができたのだろうか。
 どうしたのだろう、さっきから心臓は早く鳴るのをやめてくれないし、頬も紅くなりっぱなしだ。
 ライナスは美形というわけではないけれど、誰からも好印象をもたれそうな顔立ちだ。特に、青空を映し出したような瞳の彩は吸い込まれそうだ。
 なんか、自然に笑みがこぼれてしまいそう。
「よろしければ、明日、マロウをご案内いたしますわ」
「是非、お願いします。……それから、僕のことはライナスとお呼びください。ルシーダ姫」
 ライナスは背が高くて、私のことを見下ろしているのだけれど威圧している感じはまったくない。
「私のことも、ルシーダとお呼びくださいませ」
 私は、背後に控えているライアにちらりと視線を向けてから、またライナスに視線を戻した。
「総督府の案内はこのライアが務めます。それでは、夕食の時間にまた、お会いしましょう」
 私はベツヘルム式の御辞儀をして、ミシェーラをつれて部屋から出て行った。
 なんだか、心が熱い。
 どうしたんだろ、私……。
 自分の部屋の前まで来て、それまで暖かかった心が一気に冷えた。妙に怒った表情をしているセイが扉の前で待ち構えていたのだ。
「どうしたの? セイ」

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