私は、いつもより若干上等な服装でライナス殿下と対面した。別に、ライナス殿下に会うから気合を入れたわけではない。非公式とはいえ私が自らマロウへ案内する始めての公務だからだ。公務以外では街を歩き回っているけれど、一般的に私はマロウをあまりで歩いていないことになっている。
 そして、護衛にはミズライルのほかにナトゥラムが同行する。
 私がさきほど、ナトゥラムに武官になるための試験を受けたいといったら、眉をぎゅっと寄せてしかめっ面で私をじっとみつめてから、あきれたようにため息をついた。
 内親王は城で温和しくしてろとでもいうのだろうか。
 そんな風に思っていたら、ナトゥラムは私が考えていたのとは違うことを言った。
「お前みたいな、細いのが剣なんか扱えるかっ。もっと鍛えてから物を言え」
 女だから、内親王だからと差別はしなかったのでいい意味で裏切られたのだけれど、なんだかむかつくのは、高飛車な言い方だと信じたい。
 私が若干気分を損ねて、ライナス殿下と対面すると、ライナス殿下は穏やかな笑顔をみせて上品に朝の挨拶をした。
「おはようございます。ルシーダ」
 その笑顔は、気取った雰囲気のある応接間に春の木漏れ日が差し込んできたかのように優しい表情だ。思わず、心が浮かれて私も笑みがこぼれる。
「おはようございます。ライナス……様」
 呼び捨てでいいといわれたけれど、相手は生粋の王子、しかも年上となればそうそう呼び捨てなんてできやしない。私が言葉に詰まったのをライナスはにっこり微笑んで流してくれた。
 大人の余裕ね。
 絶対、ナトゥラムなら突っ込みを入れるところだもの!

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