だけれど、待ち受けていた衝撃は無くて。
よくみると、入場規制の指揮をしていたナトゥラムが私の下敷きになっていた。
「……たく……危ないな」
ナトゥラムはどこかほっとしたような表情を浮かべて、私を起こした。彼の手につかまり、立ち上がると、学生が青い顔をしてたっていた。
六貴族のナトゥラムの登場に、一気に肝が冷えたんだろう。
「ルシーダ殿下にこのような仕打ちをするとは、それでも王家に忠誠を誓った貴族のすることかっ」
「卑しき血を入れてはならないと訴えて、なにが悪いのですか!」
ナトゥラムに詰問されて、青い顔をしながら、それでも自分の信念を貫き通す容姿には、賞賛する。
「この学校の生徒たち全員、卑しき血を入れてはならないと考えています。この学校に入ることすら汚らわしいのに……!!」
だけれど、なんで彼らはここまで「卑しい血」というのだろう。私の母は側室だが、貴族出身。しかも側室になるぐらいの位の高い貴族ではないか。まさか、側室から生まれたのが汚らわしいとかじゃないよな。王族には正妃から生まれなかった子供たちはたくさんいる。
「それ以上、貴様の貧相な口で殿下には、聞かせるのもおぞましい単語を羅列するな。このミュリアティカムが許さん」
ナトゥラムは長剣を学生の首につきつけて言った。いつの間に剣を抜き放ったのだろう。気がつかなかった。
「……ナトゥラム、剣を下ろしてください」
「だが……!」
私の止めに入った言葉に、ナトゥラムは思わず私に振り返った。
「あなたのその考えは王家のためを思ってこそ。ナトゥラムも私に王家の将来を考えるからこそでてくる言葉。意見の相違には目をつぶります。……あなたには、学長にお話をして謹慎処分にしなければならないでしょうが、あなた以外には類を及ぼしません。誰の前でも物怖じせず、自分の意見を言えることを評価します。私の非難は甘んじて受けましょう。新参者がでてきて納得がいかないというのは理解できます。しかし……」
私は廊下に転がったナイフを拾って、ナトゥラムと同じように学生の首につきつけた。
「私の生みの母と、育ての両親を侮辱したときにはその命、無いものと思いなさい」
学生は、驚いたように目を見開いて何か言おうとして押し黙った。
「さ、案内を続けてください」
ナトゥラムは不服そうだが、私は案内の続きを促した。これで、いいのだと思う。
私が宙吊りになったとき嘲笑した案内の学生も、遠くから見ていて嘲笑したこの学校の生徒も、宙吊りになって困っていた私を試すように見上げていた兵士たちもみんな同類だ。
私の身分に疑問をもっているのだ。
私の身分に疑問を持たずに接しているのはナトゥラムとライナスだけだ。
それを知ることができただけでも、この訪問は意味のあることだった。