総督府に戻ると、ライアから定期報告を受けた。主に、王都であった出来事をライアの解説付きで教えてもらう。
「今回は、残念なご報告がございます」
 ライアは羊皮紙を見ながら、私に言った。
「上級貴族のひとつである、ジェルセミウム家ヤシュファーン様がバードックルート家ディリス様に王宮で切りかかるという事件が発生しました」
 物騒、などではすまない話だ。
 だいたい、王宮では武官以外は護身用の短剣を儀礼的に装備できるのであって、誰かを殺そうと切りかかるには不利だ。
「廊下で突然なにかわめきながら切りかかったそうです。ヤシュファーン様はその場で取り押さえられ、ディリス様は傷を負いましたが命に別状は無いようです」
「陛下はどのような採択をされた?」
「それは……まだ伝わってきておりません」
「法に照らし合せると今回のは、ヤシュファーンが裁きを受けて終わりかな?」
「それが、ジェルセミウム家とバードックルート家は長い間対立状態にあります。ヤシュファーン様が口に出された言葉も、『ディリス、覚悟。復讐の刃だ』といっていたとの証言もあります……両家おとりつぶしかもしれません」
「決闘をしたとみなされるの?」
「さようで」
 家と家同士の争いなんて、想像もつかない。水面下ではいったいどんな争いをしてたのかしら?
 こればっかりは、陛下の裁きで騒ぎは終わると思うから、そんなに重要じゃないかな。
「次ですが、小麦の収穫について……」
 ライアが手際よく作物の収穫予想や、治水工事など説明して行く。私は目前に迫った海賊退治とそのほかの雑事に追われて、王都での騒動にさして重きを置いていなかった。
 それが、この国を揺るがす大事件に発展するなんてこの時は、思いもしなかったのだ。


 何度かアリフと打ち合わせをして、ナトゥラムとパルの部隊との連携作戦を考えた。最終的には船で追いかけることになるので、ナトゥラムの部隊の精鋭とパルの部隊の精鋭がアリフたちから船乗りの基本を特訓してもらった。窃盗団まがいの集団なので兵士たちは教わるのをよしとしていなかったが、そこはナトゥラムとパルが納得させていた。
 私は試練のときを迎えていた。
 今日、ナトゥラムに武官としての試験を受けることを告げたのだ。ナトゥラムはそうか、とだけ言って武装をして鍛錬場へ来いといった。
 私は自分のためにあつらえられた、軽い皮鎧と小太刀を装備して鍛錬場へと向かった。

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