鍛錬場にて
鍛錬場には誰が呼び集めたのか、ナトゥラムが率いる部隊の兵士たちの大多数が揃っていた。私が鍛錬場へ入ると、どよめきがおきた。群衆の中心から、ナトゥラムが颯爽と出てきて、そのかっこよさが嫌味だ。
「ルシーダ殿下。武官への試験を始めるがよろしいかな?」
私とナトゥラムが向かい合ってたつと、それを遠巻きにするように兵士たちが集まり始めた。
「いつでもどうぞ」
「では、十分間、俺と勝負をしてもらう。武器は自由。俺から一本取れたら合格だ」
おいおい、部隊で一番強いから隊長をやってるだろうに、それを負かせ、というのか。
「よろしくお願いします」
私は一礼して、ナトゥラムから離れて小太刀を両手に構えた。
「ルシーダ殿下は二刀流のようだな」
「武術の素人が、二刀流をするべきではないと?」
「さあ……素人なら俺と戦おうとは思わないだろ」
にやり、と笑うナトゥラムには余裕を感じられる。確かに、ナトゥラムのほうが実力はあるし、実戦経験だって豊富だ。私は実戦とはいっても、錬金術師として生活していた頃、魔物たちから身を守るために剣を振るった程度で、人を殺すことは練習してこなかった。
だけど、負けるわけには行かない……!!
私は、ナトゥラムとの間合いを詰めて、右手を振り下ろした。当然、ナトゥラムが長剣で受け止めるのはわかっていたので、金属の重なり合う澄んだ音が響いた瞬間、私は手に隠し持っている雷の石を発動させる。青白い光が木立の刃を走りぬけ、ナトゥラムの長剣、腕を通って体を走り抜ける。
「雷の石か……」
雷が走り抜けた瞬間だけ顔をゆがめたナトゥラムが意外そうに目を見開いた。続いて左手でよろいとよろいのつなぎ目を切り付けにかかる。だが、それはあっさりと盾に受け止められる。ナトゥラムの長剣のうなる音がして、私は両方の小太刀で受け止めた。振り下ろされた長剣は、かなりの威力と勢いがあるので、か細い小太刀一本と私の腕の力では受け止めきれないからだ。また、雷の石をとっさに発動させる。
思ったとおり、ナトゥラムは一撃、一撃がものすごく重い。重いくせに振りが速いだなんてほとんど無敵だ。
ナトゥラムから押されぎみだが、なんとか押し返す。受けて、切りつけて、守って、攻めて。何度打ち合いしたかわからない。ただ、わかるのはナトゥラムときたら、ミシェーラやミズライルと違って、攻撃が嫌らしい。受けにくいところ、よけにくいところを重点的に攻めてくる。
きっと、手加減をしてもらっているのだろうけれどナトゥラムと私は均衡を保っている状態をずっと続けていた。
だけど、それも一瞬の打ち合いで途切れた。私が聞き手に持っていた小太刀を落としたのだ。ナトゥラムからの突き上げの一閃を受け止めきれず、勢いづくまま小太刀が回転しながら弧を描いて地面に落ちた。ナトゥラムのすぐ横、私からも届きそうな位置に落ちた。
ナトゥラムがわざと一歩下がり、取れといわんばかりの表情だ。だが、剣を構えるのをやめないあたり、取りに行ったらすぐに切りかかるつもりなのだろう。
私は小太刀一本だけで、残り時間に逆転するつもりだ。
一歩踏み込んで、残った小太刀だけでナトゥラムを切りつける。
「いい判断だ」
含み笑いのこもった声でナトゥラムはつぶやいた。
やっぱり、小太刀を拾うなら容赦なくきりつけるつもりだったんだ。
合わさった長剣と小太刀を押し合いながら、私はナトゥラムを睨み付けた。すると、ナトゥラムはにやっと笑うと右足で私の鳩尾を強打した。息がつまり、私は後ろへ吹き飛んで地面にたたきつけられた。鎧で守られているとはいえ、かなりイタイ。
呼吸が乱れて、咳がとまらない。
それでも、私は転がり起きた。
すると、さっきまで私がいたところにナトゥラムの剣がささる。
「なかなか楽しめた」