まだ、頭がくらくらする中で、ひざ立ち状態の私は振りかぶるナトゥラムを見上げた。隙だらけの体に向けて私は雷の石を投げつける。私は、ナトゥラムの剣筋をよけながら立ち上がった。雷の石は鎧に当たった瞬間、石に込められた雷が暴発した。
 ナトゥラムが小さなうめき声を上げて、ひざを地面につけた。私はその頸筋に剣先をつきつけた。
「ナトゥラム、私の勝ちよ」
 私の宣言に、ずっと見守り続けていた兵士たちから歓声が上がった。ナトゥラムが私を見上げて、優しく笑う。
「頑張ったな」
 その意外な笑顔に私の心臟は鼓動を高くした。
「だが……」
 私がその笑顔に見とれている一瞬の隙をついて、ナトゥラムは私の足をひっかける。地面に再びダイブしようとしている私の体をナトゥラムが抱きとめて、あの嫌味な笑顔を浮かべた。
「俺が本気じゃなかったことだけは教えておいてやる」
 ナトゥラムはそのまま私を抱き上げて、荷物のように肩に担ぎ上げた。
「ちょ……離しなさいよ!」
「立てないくせにがたがた言うなよ」
 私が暴れるのをやめると、反対に事の成り行きを見守っていた兵士たちが冷やかし始める。そんな冷やかしが耳に入っていないのか、ナトゥラムは言った。
「今日から、ルシーダ殿下はベツヘルム王国の武官だ」
 その台詞は、今の私にとって何よりも嬉しい言葉だった。

 武官になって、すぐに変わったことといえば服装だった。それまでは、着飾った華美な服装が多かったが、武官になればいつでもすぐに駆けつけられる服装をする必要があるので、王族としての品格を失わない程度に質素に、体の動き易い服装へとすぐに変更された。
 武官での地位はいきなり、大将の地位を与えられた。王族だからという理由らしい。とはいえ、すぐに大将として部隊を率いるかといえば、そうではなくて当分はナトゥラムと共に戦場を駆けることになるらしい。
 これで、いよいよ海賊退治へ本腰を入れることができそうだ。


 作戦は、いたってシンプルだ。海賊がマロウを襲撃しそうな日を狙って、私が囮となって市街地をパレードする。そこへ来た海賊を水陸両方から追撃をするということになっている。市街地のパレードとなれば、警備は厳重になって海賊が襲ってこない可能性もあるのだけれど、海賊が目的にしているのは、ベツヘルム王国以外の国を出身としている金持ちを狙っている。そういうところは、あらかじめ警備を手薄にしてあるから、襲撃してくる可能性はある。それに、政治的な目的が絡んでいるなら、私が大々的にパレードする日に海賊を退治できなかったとマロウ市民に知れ渡れば、私の権威は失落する。後ろで手引きしている人たちがそれを狙っているなら十分ありえるだろう。
 当日、私を警護するのはナトゥラムだ。
 大丈夫。ナトゥラムなら信じられる。
 海賊に海ににがれれたばあいに備えて、アリフ率いる水軍と、護衛以外のナトゥラムの部隊、パルの魔法部隊がそれぞれ海上への追撃のため、水軍の隠し港に兵を控えさせてある。
もう、あとはやるしかないんだ。

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