ただ、やっぱりライナスのことが気になる。
 私が知っているぐらいだから、もう、ライナスは知っているだろう。なんて言葉をかけたらいいのだろうか。あんなに心配そうに話をしていたのに。
 私は、いつの間にか眠ってしまったらしい。クッションの上で座ったまま眠っていた。体が固まってしまっていて、立ち上がろうとしたら足の筋が少し痛む。私は、伸びをしてなんとか体が硬いのをほぐした。
 いつも、私を起こしに来るエヴトキーヤが、すでに私が起きだしていることに、驚いたようだ。実は、クッションの上で寝てしまった、と言ったらエヴトキーヤは苦笑して、すぐに温かいお茶を持ってきてくれることになった。
 エヴトキーヤがお茶を持ってきてくれる間に、私は、身支度を済ました。いつもは、この後鍛錬場で、朝の鍛錬をしているのだけれど、今行ったら体が硬くて、使い物にならなそうだ。お茶で温まってから行くとしよう。
 エヴトキーヤがお茶を入れて、下がろうとしているときに私は声をかけた。
「エヴトキーヤ、もし、……貴女の知り合いのご両親が亡くなられたら、貴女ならどうする?」
「キエフ皇国での習慣でしたら、黒い縁取りのカードにお悔やみの言葉を書いて送る習慣がございます。葬儀には、黒い四角い胸章をつけて出席します」
 白皙の美貌で淡々とエヴトキーヤが答える。
「うん……そのカードには、なんて書くのかしら?」
「『気を落とさないように、吹雪の日もいつかは止むだろう』という言葉が一般的です」
 雪国らしい表現だ。そうか……カードか。
「ありがとう」
 心安らぐお茶の匂いをかいで、私は自然に微笑んでいるだろうか。エヴトキーヤは、一礼して私の部屋から出て行った。私は、お茶のカップをサイドテーブルに置いて、羊皮紙と羽ペンを引き出しから取り出した。
 私は、しばらく考えてからライナス宛に手紙を書いた。
『親愛なる ライナス様
お悔やみ申し上げます。
どうか、気を落とさずに。
貴方の友人 ルシーダ』
 たったこれだけの短い手紙なのに、今まで書いたどの手紙よりも手が震えた。やっぱり、ライナスからは、筆跡が綺麗だと思われたいし、細やかな気遣いのできる人だと、思われたい。
 手紙を蝋で封印して、エヴトキーヤにライナスに渡してきてくれるように頼んだ。
 エヴトキーヤはちょっと驚いたようだったけれど、すぐに了承して部屋から出て行った。
 少しでも、これでライナスが元気になってくれたら。
 ……気がつけば、私、ずっとライナスのことばかり考えている。ライナスがどう思っているのか、何を考えているのか……私のことをどう思ってほしいのか。
 ライナスのことを考えているときは楽しいし、ライナスと過ごす時間は、嬉しくてとても短く感じる。それは、ライナスと気が合うからだと、ずっと思っていたけれど。


 私、ライナスが好きなのかもしれない。

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